「今度は自分が憧れられる側に」 1試合の走行距離は15キロ超え!ボランチ修行中の帝京長岡MF遠藤琉晟が未来に繋ぐ“バトン”の意味

帝京長岡高が誇るダイナモ、MF遠藤琉晟(2年=長岡ジュニアユースFC出身)
 自分がこのチームでプレーすることの意味は、十分すぎるほどによくわかっている。かつて手に汗を握って見つめていたあの人たちのように、地元のチームで、地元出身の選手として活躍することが、その先の未来へと繋がる“バトン”になっていくと信じて、緑のユニフォームに袖を通していく。

「自分が(長岡)JYにいた時に谷内田(哲平)さんとか晴山岬さんとか吉田晴稀さんとか、そういうJYの選手が活躍しているのを見て、僕もここに入りたいと思いましたし、『選手権の舞台でやりたいな』と思ってここに入ってきたので、今度は自分が憧れられる側にならないといけないなと思います」

 全国有数の技巧派集団を圧倒的な走力で支える、帝京長岡高(新潟)に現れた新たなダイナモ。MF遠藤琉晟(2年=長岡ジュニアユースFC出身)が披露し続ける献身的なプレーは、チームにとっても大事なパーツになりつつあるようだ。

『プーマカップ群馬2024』の2日目。“ホームチーム”の前橋育英高(群馬)と対峙していたのは、今シーズンからプレミアリーグに初参戦する帝京長岡。個々の高いスキルには定評のあるチームの中で、的確なポジショニングでボールを引き出し、危険な場所にはすぐに顔を出す14番のボランチは、明らかに効いていた。

 試合後。話を聞かせてもらおうと声を掛けると、遠藤は「え?オレですか?」と不思議そうな表情を浮かべた。続けた言葉が、その理由を教えてくれる。「ボランチを本格的にやり始めたのは最近なんです。1年生の時はずっと右サイドバックをやっていて、中学の時もセンターバックで、ずっと後ろの方をやることが多かったですし、2年生になってちょっとずつボランチをやり始めて、最近はずっとボランチをやっているんですけど、自分の中ではまだまだ、特に攻撃の部分で全然足りないかなって思っています」。

 つまりは、経験の浅さからボランチとしての評価軸が、自分の中でも定まっていないということだろうか。ただ、「ボランチは修行中という感じですね。自分はチームの中で一番走れるので、守備のところで走ったり、攻撃で味方が失った時の奪い返しのところだったり、自分が走ってやれればいいかなと思っています」と自ら話すように、90分間に渡って落ちない運動量でピッチの至るところに顔を出せる能力は、間違いなくこのポジションを務める上で大きな武器と言えそうだ。

 チームを率いる古沢徹監督も、彼が備える走力を具体的に教えてくれる。「遠藤はだいたい90分で15キロぐらい走るんですよ。本当にあそこで刈り取る感じですし、スピードも速くてJY譲りのボール感覚はあるので、ああいう選手が中盤でいてくれたらありがたいなと」。ちなみにJ1の開幕2試合で走行距離ランキングトップの選手が叩き出した数字が“14.01キロ”。この比較からも、遠藤が有する運動量がよくわかる。

 もちろん自分でも求められている役割は承知している。「やっぱり攻撃というよりは守備の部分が求められているのかなと思ってやっています。1対1の対応は自信を持ってやっていますし、中盤でもセカンドボールの回収とボール奪取は自分でも頑張ろうと思っています」。ゆえに攻撃への関わりはシンプル。それがまたチームのパスワークをスムーズに加速させる。

 だが、少し話していると課題ばかりが口を衝く。「視野が狭いので、もっと視野を広くして、シンプルだけど相手にダメージを与えるようなプレーができるようになればもっといいなと思います。まあ、正直、試合に出られればポジションはどこでもいいです。一番いいのは試合に出られることなので、ボランチは難しいなという感じです(笑)」。まだまだ新しいポジションは修行中の身。今やれることを全力でやるしかないといったところだろうか。

 中学時代にプレーしていたのは、帝京長岡の下部組織に当たる長岡ジュニアユースFC。とりわけ13歳の時に見た“先輩”たちの雄姿は、脳裏に焼き付いている。「自分が中1の時の高3が谷内田くんたちで、あの代のチームはメチャメチャ特別です。自分も2試合ぐらいスタジアムに見に行ったんですけど、あの時は凄かったですね。マジでカッコ良かったです。あの代は準決勝の青森山田戦まで無失点だったんですよ。攻撃も上手かったですけど、守備も徹底されていて、そこは今になって改めて凄いなって思います」。あのチームの守備面に目を向けるあたりも、この人らしい。

 この日の前橋育英戦に臨む帝京長岡は、いわゆる練習試合用のユニフォームで戦っていたが、遠藤の背中にはチームの中で特別なエースナンバーとして知られる14番が躍る。

「あれは練習試合用の“持ち番号”ですね。一応JYの中の誰かが付けるみたいな感じだとは聞いたんですけど」と明かす本人に“14番”へのこだわりを尋ねると、「14番を付けられるなら付けたいですけど、そこまでこだわりはないです。自分がゲームに出て活躍して、チームが勝ちさえすれば、自分はそれでいいと思っています」とシンプルな回答。このあたりにも堅実な人となりが窺える。

 前述したように、昨シーズンのプレーオフを勝ち抜いたチームは、とうとうプレミアリーグの舞台を戦うことになる。その未知の世界へと足を踏み入れることへの期待を問うと、遠藤はこういう言葉で応えてくれた。

「プレミアで自分がやっていけるのかという不安は少なからずあるんですけど、楽しみな気持ちもあって、日本で一番レベルの高いリーグなので、プレミアの選手たちに通用するようになったら、日本のトップレベルでやれているという自信が付いて、選手権への自信にもなると思いますし、そのレベルの高いリーグでプレーすることによって、これからの将来にも繋がってくると思うので、全力で楽しみながら優勝を目指してやっていけたらいいなと思います」。

「自分もボランチをやり始めたばかりなので、自分がボランチで本当にやっていけるのかという危機感もありますし、そういう不安はこの1か月で絶対になくさないと開幕戦でも自信を持ってプレーできないと思うので、これからもっと練習して、自信を持ってプレミアに挑めたら最高かなと思います」。

 謙虚な言葉を並べる新米ボランチに、改めて聞いてみた。「でも、絶対にレギュラーを獲って、試合に出たいという気持ちはありますよね?」。即座に答えが返ってきた。「全然あります。それはありますよ」。

 その一言で十分気概は伝わってきた。古沢監督の言葉も印象深い。「遠藤は核になってきてほしいなと。なかなかああいう選手はいないので、僕は信頼しています」。

 自分にやれることを過不足なく、丁寧に、全力で。きっと帝京長岡の試合を見る人の中に、遠藤琉晟という選手の存在が確かに刻まれていくのも、そう遠い先のことではなさそうだ。

(取材・文 土屋雅史)
Source: 大学高校サッカー

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