昨シーズンは1年を通じてハイレベルなステージを経験してきたからこそ、今年の自分に求められているタスクは理解しているつもりだ。攻撃でも、守備でも、誰よりも効き続ける選手に成長してみせる。それがそのままチームに勝利をもたらすことも、もうわかっているから。
「去年は『自分もチームの支えになれたらいいな』ぐらいだったんですけど、今年は自分がやらないといけないと思っているので、自分が点を獲ったり、ゴールを守ったりしないといけないですし、大きな目標としてはプレミア、インターハイ、選手権のどれかを優勝したいと思っています」。
悲願の日本一を掲げている山陰の野武士軍団、米子北高(鳥取)を支える群馬育ちのプレーメイカー。MF柴野惺(2年=前橋FCジュニアユース出身)が攻守に発揮し続けるハイパフォーマンスは、チームの目標達成にとって絶対に欠かせない。
4月からスタートする高円宮杯プレミアリーグを控え、プレシーズンの力試しの場として開催された『プーマカップ群馬2024』。大会2日目のラストゲーム。去年からレギュラーを務めてきた選手の数人を欠く米子北は、埼玉の強豪・西武台高相手になかなか思うようなゲーム展開に持ち込めない。
「去年は3年生が声を出してくれていたんですけど、そういう人たちがいなくなって、自分が声を出すしかないなと思っていたんですけど、相手のレベルも高くて、自分のことで精一杯になってしまって、なかなか声を出せていない状況でしたね」。中盤の中央に入った柴野も懸命にハードワークは続けるものの、チームの歯車を円滑に回すまでには至らず、相手に2点を先行されてしまう。
試合終盤。米子北にようやく得点機が訪れる。ペナルティエリアで柴野が倒されて獲得したPK。キッカーはファウルを受けた張本人が務めると、右足で蹴り込んだ渾身の一撃は、しかしクロスバーに跳ね返る。「いつも決めているコースなんですけど、思い切り蹴ったらクロスバーに当たってしまいました……」。
ファイナルスコアは0-2。チームを率いる中村真吾監督も「腹をくくるというか、『やってやるんだ』という強い想いを持って戦えば、もうちょっと良い結果が出るんじゃないかなと思うんですけどね」とやや渋い顔。それでも個人としても、チームとしても、しっかりと課題を抽出できた貴重な2日間だったことは間違いない。
柴野にとってはこの遠征にどうしても“頑張りたい理由”があった。彼がプレーしていた3種のチームは前橋FCジュニアユース。この日の会場だった前橋育英高校高崎グラウンドは、中学時代の3年間を過ごした“思い出の練習場”だったからだ。
多くのチームメイトが群馬県内の高校へと進学する中で、「自分はプレースタイル的に、走るとか球際で頑張る選手だったので、自分で行きたいと思って決めました」と鳥取の名門へ入学。昨年もプーマカップには参加したものの、会場の振り分けの関係もあってこのグラウンドではプレーできなかったため、実に3年ぶりに懐かしい場所へ帰ってきた。
「両親も来てくれるということもあって、ここに来るのはメチャメチャ楽しみでしたけど、グラウンドは全然変わっていなかったです。昨日はちゃんとサッカーもできないぐらい風が強かったですし、やっぱりこっちは乾燥していますよね(笑)」。とにかく風が強い地元の気候も、離れてみると懐かしく感じるものなのだろう。
1日目には健大高崎高と前橋育英高と対戦したことで、かつてのチームメイトとの再会も果たした。「前橋FCはみんな仲が良いので、事前にLINEで連絡は取っていましたね。自分も少しレベルアップしたとは思うんですけど、その分彼らもレベルアップしていましたし、特にボランチの石井陽はメッチャ上手かったです」。
今季の前橋育英の核となる、同じポジションのMF石井陽(2年)からはとりわけ刺激を受けながら、旧友たちと1つのボールを巡って同じピッチに立った経験は、これからのシーズンを戦う上でも柴野にとっては格好のエネルギーチャージになったようだ。
2年生だった昨季はボランチの定位置を掴み、プレミアリーグでも21試合に出場。「プレミアでの1年間を戦っていくうちに、それまでは相手が来ると焦って、ボールロストが多かったんですけど、相手が来ても1個かわしてパスを出したり、スルーパスも出せるようになりました」と確かな成長を感じた一方で、同年代のスペシャルな対戦相手には圧倒的な才能が持つ輝きを突き付けられた。
「いつもは結構“潰す役”をやるんですけど、サンフレッチェの中島洋太朗選手と対戦した時には、1つもアタックできないポジション取りをされたんです。ちょっとレベルが違いましたし、だいぶ自分の経験値になりましたね。自分に足りないのが常に周りを見てプレーするということで、1個のプレーに集中して逆が見えなかったりするので、そこは直していきたいです」。世代でも有数の選手と肌を合わせたことで、自身に求める基準も確実に上がっている。
高校ラストイヤーとなる今シーズン。ここから目指すべき選手像も、しっかりイメージできている。「まず守備では球際で一気に相手を潰したりして、そのあとの攻撃のスイッチを入れてカウンターというイメージでやっていますし、フォワードが競った後のセカンドボールを拾って、サイドに散らしたりすることもやっていきたいですし、個人としてはゲキサカのプレミアのベスト11に選ばれるぐらいの選手になりたいと思っています」。
群馬から遠く離れた鳥取の地で勝負している意味を、ハッキリと証明するための1年間。戦う気持ちや90分間走り続ける運動量は標準装備済み。さらなるプラスアルファを身につけるため、柴野はトレーニングから100パーセントの姿勢でサッカーと向き合っていく。
(取材・文 土屋雅史)
Source: 大学高校サッカー
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