2028年ロサンゼルス五輪まであと4年。ロサンゼルス五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ2005年生まれ以降の「ロス五輪世代」において、年代別日本代表未招集の注目選手たちをユース取材ライターの川端暁彦記者と森田将義記者がピックアップ
「彼は『市船の5番』なので。特別なものだし、いろいろな先輩が背負ってきたものですから」
市立船橋高の中村健太コーチは、今年のキャプテンに託したモノの意味について、そんな言葉で形容してみせた。
岡部タリクカナイ颯斗(3年)は、「市船の5番」である。堅守の伝統を誇る青いユニフォームの名門校で、5番は守備の要となる選手が背負うナンバーだ。この番号を託した中村コーチの代であれば、京都や柏、千葉などで活躍した増嶋竜也さんが背負っていた番号である。
さらに高円宮杯プレミアリーグEASTの開幕前日には、こちらも重い伝統があるキャプテンマークをも託されることとなった。「そういうパーソナリティーがある」(中村コーチ)という期待は、主将という立場がこのタレントをより大きく開花させることをも期待したものだろう。
当の本人も「今年は自分がもっとリーダーシップをもってやっていかないといけないと思う」と自覚的だ。
高円宮杯プレミアリーグEASTの開幕戦では前年度王者の青森山田高と対戦。「しょうもない失点が多すぎた」と嘆く0-2の敗戦に終わったが、「もっとトレーニングから甘さをなくせるようにしていかないと自分も含めてやっていく」と気持ちを新たにしている。
負傷から復帰したばかりで中村コーチによれば、「まだまだ全然本来の状態ではない」と言うものの、柏レイソルU-15出身の選手らしいビルドアップの起点となるプレーでは十分に機能。ロングフィードから決定機の起点になるシーンもあるなど、持ち味を発揮するシーンも多かった。得意のヘディングは相手GKの好守に阻まれたが、「次は自分も決めないといけない」と今季は特にセットプレーでのゴール量産も狙う考えだ。
本格的にFWからCBへコンバートされたのは全国高校サッカー選手権大会直前からで、「まだ(DFとしての)経験が浅いのはわかっているし、わかっていないことも出てくる」と言いつつも、「そんなことを言っていられない」とも言い切る。大きな体を使っての空中戦には自信を持ち、実際に存在感も抜群にあるが、現代のDFに求められるクオリティはそれだけではない。視線の先に置いているのはポルトガル代表DFの姿だ。
「マンチェスター・シティの映像はよく観ています。ビルドアップも参考になるし、特にルベン・ディアスのプレーはよく観ています。凄くボールを奪える選手なので、『なんでなんだ?』って思いながら、ずーっと観ていますね。相手のFWが本当に嫌がっているのがわかるくらいに凄い。少しでも吸収して、ああいう選手に近づきたい」
中村コーチはそんな岡部の今後の成長ポイントとして「守備力ですね」とシンプルに語る。
「1対1になったときに一人で奪い切れるかどうか。空中戦は本人も自信があると思いますが、地上戦はどうか。前で持たれたときに奪えるかどうか、数的不利の状況で守れるかどうか。そういう厳しい状況でも『タリクなら守れる』『最後はタリクがいるぞ』と周りから思ってもらえるくらいの力を付けてほしいと思っています」
高さはあるし、ボールを蹴る技術や判断も確かなものがある。DFとしての経験値を積み上げて「守備力」に一段の磨きをかけることができれば、自ずと別のユニフォームへ袖を通す可能性も出てくるだろう。
「プロになりたいし、そのためにも高校選抜とか、もっと上の年代別日本代表とかに呼ばれるような選手にならないといけない。今年1年なんてあっという間に終わってしまうと思う。本気でやっていきたい」
『市船の5番』は、夢に向かって力強く、そう言い切った。
(取材・文 川端暁彦)
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Source: 大学高校サッカー
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