[4.20 関東高校大会東京都予選2回戦 堀越高 2-1 東海大菅生高 駒沢第2]
望むと望まざるにかかわらず、周囲の目が今まで以上に高いハードルを課してくることは間違いない。もちろん自分たちも結果を出したくないはずはないけれど、きっとそれと同じくらいか、あるいはそれ以上に大事なことがあることにも、既に彼らは気付いているようだ。
「周りからも“全国ベスト4”という見られ方はあると思うので、どこに出ても恥じないチームを作りたいですね。選手権に出ることを第一の目標とはしていくんですけど、それと同じぐらい応援されるチームを目指したいです。勝ち負けは別としても、最後まで動き続けるとか、走ることをやめないことで、応援されるような魅力あるチームを作っていきたいと思います」(堀越・竹内利樹人)
その先が国立競技場へと続いていると信じ、再び進み始めた“千里の道”も一歩から。令和6年度 関東高等学校サッカー大会 東京都予選は20日に2回戦を行い、昨年度の高校選手権で全国4強に食い込んだ堀越高は東海大菅生高に2-1で競り勝って、準々決勝へと進出している。
「緊張は感じましたし、『少し声が出てないな』とかはあったんですけど、そこはチームとして包み込んであげるというか、カバーしてあげるというか、『失敗はいいから、それを全員でカバーしよう』ということは試合前から言っていました」。今季のキャプテンを任されているDF竹内利樹人(3年)はピッチに漂う硬い空気を感じていた。高校選手権準決勝を国立競技場で戦ってから3か月。新チームになった堀越はリーグ戦こそ2試合を経験したものの、トーナメントはこれが初戦。緊張しない方が難しい。
そんな雰囲気を切り裂いたのは、国立の舞台に立っていない3人が織り成したアタック。前半9分。最前線のFW高橋李来(2年)からパスを引き出したMF谷口昊成(2年)が放ったシュートは左ポストに阻まれるも、こぼれをFW小泉翔汰(3年)が確実にプッシュ。早々に堀越が先制点を奪ってみせる。
この1点を経たことで、チームの足が少しずつ動き出す。18分にはMF勘田大翔(3年)のスルーパスから高橋が、25分にはFW岩崎晄芽(3年)との連携で抜け出した竹内の右クロスから小泉が続けて決定機を掴み、どちらも東海大菅生GK永松虎桜(3年)のファインセーブに阻まれたものの、鋭いアタックで追加点の気配を漂わせる。
一方の東海大菅生も馬力のあるFW宇佐見晴磨(3年)とFW鶴崎修斗(3年)の2トップを軸に反撃の機会を窺うと、40分にはビッグチャンス。カウンターからMF水越虎太朗(3年)がクロスを上げ切り、ファーで収めたMF橋本俊(3年)がシュートを放つも、ここは果敢に飛び出した堀越のGK佐藤晴翔(3年)がビッグセーブ。「危ないシーンも1シーンぐらいで、相手が蹴ってきたボールを収めて、マイボールにして繋げていくという自分たちがやりたいこともやれていて、実際にそこから点も生まれましたし、前半はとても良かったと思います」(竹内)。前半は1-0のままで、40分間が終了する。
一振りで主役の座をさらったのは「自分の役割を自分的には明確にできていました」と語る、選手権でも脚光を浴びたナンバー14だ。後半22分。その2分前に途中投入されていたFW仲谷俊(3年)は左サイドでボールを受けると、迷うことなく右足一閃。軌道はニアサイドを破って、ゴールネットへ到達する。エースが挙げた追加点。2-0。点差が開く。
ただ、東海大菅生にも意地がある。27分には途中出場のFW伊藤慈央(3年)がPKを獲得。こちらも後半からピッチへ送り出されたMF高橋颯(2年)が、冷静なキックをゴールへ沈める。「相手がやってくることは自分たちも分析して、『裏にボールを落とさないようにしようね』と言っていたんですけど、結局あのシーンは落としてしまって、声を掛けられなくてPKになったので、あそこを突き詰められなかったのは課題ですね」(竹内)。堀越は1点差に迫られる形で、終盤へと突入していく。
それでも同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。右から竹内、DF森奏(3年)、後半途中でDF渡辺冴空(3年)からバトンを引き継いだDF森章博(3年)、DF瀬下琥太郎(3年)が並んだ4バックに加えてアンカーのMF渡辺隼大(3年)と、全員が国立を経験している5人を中心に冷静さを取り戻し、ロングボールも弾ませない守備を徹底。同点へと意気込む東海大菅生に付け入る隙を与えない。
4分のアディショナルタイムがなくなると、タイムアップのホイッスルが響く。「トーナメントはこういう戦いになってきますし、相手はすべてを出してやってくるので、『ようやく帰ってきたな』と。このピリピリした感じは近江戦以来なので、僕自身も思い出してきた感じがありました」とは佐藤実監督。堀越が2-1で粘る東海大菅生を振り切って、次のラウンドへと勝ち上がる結果となった。
「まだちょっとわからないですね。ここからこういう厳しいゲームを経験しながら、彼らもどう自分たちと向き合って成長するかというのが、ウチのチームの一番の強みですし、去年も春先は決して良かったわけではなかったので、誰がここから伸びてくるのかも含めて、そのあたりが大事かなという感じはしています」。今シーズンのチームの特徴を問われた堀越の佐藤監督は、そう語っている。
選手権でも攻撃の核を担っていた仲谷は、昨シーズンの1年で得られたものをこう口にする。「やっぱり経験ですね。今日も去年の選手権でベスト4まで行った経験を持っている選手が半分ぐらいスタメンで出ていたので、またそこに行く、そこを超えるという意味では、そういう選手たちが先頭に立って、チームを引っ張っていく存在になれれば、みんなも付いてきてくれると思います」。
この日の10番を背負った勘田は、選手権の登録メンバーにこそ入ったものの、ベンチ入りは1試合も叶わなかった。「去年の選手権は予選までベンチに入っていたんですけど、本選からベンチ外という形で凄く悔しい想いをしたので、『自分を変えてやろう』という気持ちで毎日の練習に臨んで、それが今はこういう形でスタメンで出られているのかなって。今後はもっと結果を出して活躍できたらなと思います」。こういう選手の台頭がグループの総合力を高めていくことは、あえて言うまでもないだろう。
自身も昨季からレギュラーを務めているキャプテンの竹内は、チームの輪の融合に注力しているようだ。「ああいう国立の舞台で、全国のレベルの高い選手とやれたことは去年の先輩たちが残してくれた大きな財産なんですけど、それをもっと経験していない選手に伝えなきゃいけないですし、それを日常に取り入れることで、あのレベルにもう1回戻れるのかなとは感じているので、まだまだ試合に出ていた選手の覚悟が足りていないのかなと。まだまだこのチームは未完成ですけど、どんどん声を掛けていけるようになれば、去年のような強さが戻ってくると思います」。
試合に出ていた選手の“経験”と、試合に出られなかった選手の“経験”。違う立場でそれぞれが味わった悔しさをみんなで共有し、エネルギーへと昇華させていくことが、きっと彼らが描くべき『今年の絵』の輪郭を少しずつ形作っていく。
「去年は去年で別物ですし、選手も変わっているので、それを超えなきゃいけないというよりは、『去年はああいうことがあったなあ』ぐらいの感じです。でも、やっぱりあの近江戦から僕らは学ばなきゃいけないですし、去年やってきたことを今年はもっとしっかり腰を据えてやって、その中で違うものが出てくればいいかなという感じの見え方が今はしています」(佐藤監督)。
だからこそ、冒頭の竹内の言葉が今年のチームを築き上げていく上では、何よりも大事になってくる。「応援されるような魅力あるチームを作っていきたいと思います」。そのマインドは常に不変。勝敗に左右されず、常に最後まで全力で戦う姿勢を貫くことが周囲の熱量を動かしていく。2024年の堀越は『応援されるような魅力あるチーム』を真摯に目指す。
(取材・文 土屋雅史)
Source: 大学高校サッカー
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