[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[4.28 関東大学L2部第3節 早稲田大 1-4 慶應義塾大 東伏見]
3年ぶりにリーグ戦で実現した早慶戦は驚きの幕開けとなった。慶應義塾大のGK村上健(4年=國學院久我山高)が前半5分、センターサークルまで前に出てビルドアップに参加すると左足を力強く振り抜く。ボールは鮮やかな弧を描き、ノーバウンドでゴールに吸い込まれた。
早稲田大の兵藤慎剛監督が「早慶戦で気合いが入らない学生は誰もいない」と語るように、村上も強い決意をもって大学サッカー屈指のライバル対決に臨んでいた。1年次の2021年に関東大学1部リーグで早慶戦を制したものの、慶大はこのシーズンを降格圏で終え、2部へ降格。さらに翌年は3部への降格と低迷した。その間に行った定期戦は2連敗。村上は「借りを返したいという思いでこの2年半、ひたすら練習に励んでいた」と明かし、2部と舞台こそ変わったが久しぶりのリーグ戦での対戦を迎えた。
村上は待ち望んだ対戦で「味方も驚かせることができた」衝撃の先制ゴールを決めた。自陣センターサークル内から蹴られたボールがゴールに向かっていくと、観客席から「え?」といった声が漏れる。驚きまじりの声はそのまま大きな歓声へと変わった。
中町公祐監督は「みんなびっくりしたんじゃないですか。あの指示は別に出さないですから」と振り返る。その言葉が示すように、味方も思わずGKの超ロングシュート弾としては異例の比較的落ち着いた振る舞いでゴールを喜んだ。村上は「あまり駆け寄ってくれなかったので『あれ?』とは思った」と笑ったが、それほど衝撃的な一発だった。
ただ、このゴールは偶然だけで生まれたものではない。中町監督が就任した今季、慶大はGKも積極的にビルドアップに関わるサッカーを展開している。そのなかで村上は相手GKの位置が前寄りになっていることを感じ取ったといい、「思い切っていってもいいのかな」と判断。その結果、中学生から始めたキーパーキャリアで初めてのゴールを記録した。シュートを打ったこと自体も初めてのようで、新たなサッカースタイルと冷静な判断力、思い切りのよさ、そして風向きといった様々な要素が合わさった得点となった。
もっとも、村上はシュートストップの点でも大きな活躍を見せた。2点リードの前半45分、ゴール右隅を襲うミドルシュートに上手く足を運んで右手でセーブ。後半の立ち上がりにはゴール正面かつ至近距離からのシュートに反応すると、直後には鋭いシュートを足で防ぐという1点もののスーパーセーブを連続で披露した。完封とはならなかったが、早慶戦の快勝を導くハットトリック級のパフォーマンスだった。
村上は仲間の応援に触発されていたという。
「アウェーの地でアップのときから早稲田の応援をかき消すくらい、ゴールの後ろから1試合通してひたすら後押しをずっとやってくれた。その応援が力に変わって、足を出せたりストップできたりした」(村上)
慶大は開幕3試合を2勝1分とし、上々のスタートを切った。1部復帰に向けた戦いが続く一方、8月には11年ぶりに国立競技場での早慶サッカー定期戦を行う。今季の早慶戦第1戦でヒーローとなった村上は「本当に自分たちが立てるのかという思いが正直あった」と聖地での一戦に胸を躍らせながら、開催に向けて尽力する人々への感謝を忘れずに「自分たちだけではサッカーができないというのを改めて感じたし、そういった人たちの思いを背負って思い切りプレーしたい」と意気込んだ。
(取材・文 加藤直岐)
●第98回関東大学リーグ特集
Source: 大学高校サッカー
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