[5.25 プレミアリーグEAST第8節 前橋育英高 2-1 尚志高 前橋育英高校高崎グラウンド]
チームなんて1日1日で変わっていく生き物だ。良い時もあれば、悪い時もある。成長することもあれば、停滞することもある。でも、一歩ずつでもいいから前進はし続けていたい。だって、手に入れたいと目指しているものは、きっと前にしかないはずだから。
「入りでああいう失点をしてしまって、雰囲気的にも良い状態ではなかったところから、こうやって逆転できたのはインターハイに向けても弾みが付きますし、こういう勝ち方もできるというのは自分たちもわかったので、そこは今後の自信に繋がるかなと思っています」(前橋育英高・石井陽)。
今季初の逆転勝利で、連敗脱出に成功!25日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第8節で、前橋育英高(群馬)と尚志高(福島)が対峙した一戦は、前半5分にMF西丸由都(3年)のゴールで尚志が先制したものの、前半のうちにFWオノノジュ慶吏(3年)が同点弾を叩き込んだ前橋育英は、後半16分にMF平林尊琉(2年)が決勝点をゲット。3試合ぶりとなる白星を手繰り寄せている。
ゲームは「前半の立ち上がりは結構守備がハマって、良い形で行けましたね」とキャプテンのFW千住澪央(3年)も話した尚志が強度高くゲームに入ると、あっという間に動いたスコア。5分。相手ボールを良い形で奪った流れから、MF星慶次郎(3年)、千住と繋がったボールは西丸の足元へ。「トラップは結構ギリギリで触った感じがしたんですけど、相手が詰めてこなくて、ゴールを見て打てそうだったので、右下にインサイドで流し込む感じで」丁寧に蹴ったボールは、狙い通りのコースを辿ってゴールネットへ吸い込まれる。1-0。アウェイチームが早くもリードを奪う。
以降も「いつもより前からハメに行っていて、それでうまくハマって取れたシーンが何回もありました」と西丸も口にした尚志は、好リズムの中で狙う2点目。22分には左サイドから西丸が中央へ丁寧に折り返すも、千住の決定的なシュートは枠の左へ。41分にも西丸の右CKから、DF板垣大翔(3年)が頭で合わせたボールはGKを破るも、ここはカバーに入っていた前橋育英のDF青木蓮人(3年)がライン上でスーパークリア。ホームチームも水際で踏みとどまる。
兆候は現れていた。「全部縦パスを引っ掛けちゃって取られていたんですけど、センターバックがうまく繋ぎ出してからはリズムが出たと思います」とは前橋育英のGK藤原優希(3年)。前半の中盤ぐらいからボールも回り出し、主導権は引き寄せつつあった中で、44分に相手のパスミスを見逃さなかったFWオノノジュ慶吏(3年)はGKをかわして、無人のゴールへボールを流し込む。「アレは大きかったですね」と山田耕介監督も言及した貴重な同点弾。前半は1-1のタイスコアで45分間が終了した。
双方が滲ませる2点目への意欲。後半9分は前橋育英。MF黒沢佑晟(3年)を起点にDF牧野奨(2年)がスルーパスを通すと、オノノジュが抜け出すもフィニッシュは飛び出した尚志のGK野田馨(3年)がファインセーブ。直後の10分は尚志。FW関口元(3年)が頭で残し、バイタルで粘って前を向いたFW長坂隼汰(3年)のラストパスから、西丸が打ち切ったシュートは藤原が身体を投げ出してビッグセーブ。両守護神が好守を繰り出し合う。
絶好の得点機は前橋育英に訪れる。15分。青木と牧野のビルドアップを始点に細かいパスとドリブルを組み合わせたコンビネーションでオノノジュ、黒沢と回ったボールから、平林は果敢にペナルティエリア内へ侵入。たまらずDFが倒してしまい、主審はペナルティスポットを指し示す。
キッカーは「陽さんから『無得点なんだから蹴れ』って言われましたし、慶吏さんからも自信が出るような声掛けをもらいました」と話すPKを獲得した10番。左スミを狙ったキックは野田に弾き出されたものの、平林は自らリバウンドを丁寧にゴールへ流し込む。「育英のパスサッカーでパンパン繋いで、自分が裏に抜けて、そこで取れたPKで決められたというのは、チームとしても良いゴールだったと思います」。タイガー軍団が逞しくスコアを引っくり返す。
ビハインドを負った尚志は18分にFW矢崎レイス(3年)とMF大内完介(3年)のU-17日本高校選抜コンビを同時投入。前者のキープ力と後者のドリブル突破をアクセントに、もう一度ギアを上げに掛かったものの、23分にDF荒川竜之介(3年)が蹴り込んだ鋭いクロスは、青木がここも巧みにクリア。どうしても相手ゴールに迫り切れない。
2分が掲示されたアディショナルタイムまで集中力を途切れさせず、タイガー軍団はタイムアップのホイッスルを聞く。ファイナルスコアは2-1。「今日は本当にチーム全体で勝った感じがありますし、『連敗を止めてインハイに向かおう』ということでやってきたので、ここで勝ち切れたのは本当に大きいと思います」(藤原)「試合全体を見たら良い面も悪い面もあったなとは思いますけど、逆転できたのは良かったかなと思います」(石井)。前橋育英が第5節以来となる3試合ぶりの勝利を、逆転で掴み取る結果となった。
ここから1か月近く設けられている中断期間前のラストゲーム。尚志戦に臨んだ前橋育英のスタメンは、FC東京U-18に敗れた開幕戦のそれから、プレミアデビューを飾った牧野を筆頭に5人が入れ替わっている。
「今年は総力戦なので、いろいろな試合によっていろいろな選手が出る中で、まだそういう個々の特徴を合わせられていないというか、理解しきれていない部分がコンビネーションの合わないところに繋がってしまうのかなって。そういうところはもっと練習から選手同士が要求し合わないと変わっていかないので、もっと突き詰めていきたいと思います」と話したのは石井。この日はMF柴野快仁(2年)が指名されたドイスボランチの相方も、これまでMF平良晟也(2年)など複数人が起用されてきた中で、キャプテンはチームのバランスと自身のプレーの最適解を模索している。
一方で昨シーズンの最終節、横浜F・マリノスユース戦のメンバーに入っていた選手は、この日の登録メンバー18人の中で8人を数えている。プレミアリーグの経験を十分に有している選手は少なくないが、それだけでチームが簡単に強くなるほど甘い世界でもないわけだ。
1年生だった昨年からスタメンを張ってきた平林は、そんな状況をこういう言葉で表現してくれた。「自分たちは去年も出ていた選手が多いですけど、前から出ていた選手に新しい選手が加わった中で、もともと出ていた選手も前にやっていた感じでやると持ち味を出せなくて、はじめは3連敗しちゃったのかなって。でも、今はみんなお互いを理解してきたので、自分たちの強い個性を1人1人がちゃんとチームに合わせながらやっていくことができるようになってきているのかなと思います」。
さまざまな個性が混じり合い、その中で現れてくる“絵”には、一度として同じものはない。もちろん昨シーズンで学んだものはたくさんあるけれど、それを新しいシーズンで描いていく新しいイメージの中に、どういう形で溶け込ませていくかが、今を戦うチームにとっては何よりも重要だ。
「今日は柴野とボランチを組んだんですけど、(平良)晟也とは違う良さがありますし、どんな選手が出ても合わせられるというのは今年の良さなのかなと思うので、そこでチームに合わせていく質だったり、誰が出てもその選手の特徴を生かせるようなチーム作りだったり、その中での選手の理解力をもっと高めていければと思っています」(石井)。
昨年のチームには昨年のチームの、今年のチームには今年のチームの色がある。徐々にではあるけれど、ようやくぼんやりと見えてきたその輪郭。『2024年の前橋育英』がデッサンを始めた絵には、まだまだ新たなアイデアにあふれたさまざまな景色が描き足されていくはずだ。
(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プレミアリーグ2024特集
Source: 大学高校サッカー
コメント