「力が付いたら勝つ」じゃなくて「力がなくても勝つ」。己を知る昨年度選手権の東京代表・早稲田実は保善相手に粘り強く戦って完封勝利!

昨年度の選手権予選で東京を制した早稲田実高は保善高に競り勝つ!
[5.26 インターハイ東京都予選1回戦 保善高 0-2 早稲田実高 東久留米総合高校グラウンド]

 期待してもらえることは嬉しいけれど、自分たちの力は、自分たちが一番よくわかっている。急がば、回れ。1つ1つの練習で、1つ1つの試合で、ちょっとずつ成長し続けて、ちょっとずつ自信を纏っていくほかに、去年の先輩たちに近付いていく方法はない。

「今持っている財産で勝負というよりは、試合をやっていくことで財産をちょっとずつ増やしていく、引き出しをちょっとずつ増やしていく、という形ですね。公式戦を積み重ねることで、その中で勝っていくことで、1つずつ力を付けていきたいという感じです」(早稲田実高・森泉武信監督)。

 新チームで臨んだ公式戦では、初めて2点差を付けての勝利で2回戦進出!令和6年度全国高校総体(インターハイ)東京都予選1回戦が26日、東久留米総合高校グラウンドで開催され、昨年度の選手権で初の全国出場を果たした早稲田実高と保善高が対峙した一戦は、後半にMF松下岬(3年)とFW篠田一(1年)がゴールを挙げた早稲田実が2-0で勝ち切っている。6月2日に行われる2回戦では関東一高と対戦する。

 ファーストチャンスを掴んだのは保善。前半3分。左サイドを運んだFW大野泰朗(3年)が強烈なシュート。ここは早稲田実のDF野川一聡(2年)が果敢に体でブロックしたものの、「相手の個人の力があることを意識して、そこに自由にボールを入れさせないことは意識していました」と早稲田実の森泉武信監督も話したように、保善は大野やMF有村漣(2年)、MF鈴木陽太(3年)と前線に並んだアタッカーの馬力を生かしつつ、右のMF塩野晴都(3年)、左のMF塙羚冶(2年)と両ウイングバックも積極的にボールを引き出し、良い形でゲームに入る。

 ただ、早稲田実も少しずつボールアプローチのスピードが増し、守備から攻撃への切り替えもスムーズに。「保善は凄くパワフルなチームでしたけど、自分たちも前から行くというのが重要なゲームだと思っていたので、それが前半の途中からできるようになってきて、自分たちのペースに持っていけた印象です」とは3バックの一角を務めるDF小島凛久(1年)。中盤に入ったMF竹内太志(2年)や松下が前を向く機会も増え出すと、31分には決定機。右サイドからキャプテンのMFスミス聡太郎(3年)がクロスを放り込み、収めたFW霜田優真(2年)のシュートは保善のGK杉田龍基(3年)にファインセーブで凌がれたが、惜しい形を創出する。

 均衡が破れたのは後半9分だった。ギャップでパスを引き出した松下が左へ振り分け、霜田は少し運んで冷静な折り返しを中央へ。受けた松下は冷静なシュートでボールを右スミのゴールネットへ滑り込ませる。「今までなかなか公式戦でも点を決められていなくて、責任を感じていた部分があったので、やっと決められてちょっとホッとしています」と笑った10番の先制弾。早稲田実が1点のリードを奪う。

 追い掛ける展開となった保善も諦めない。10分には左サイドの深い位置からDF尾山正太朗(3年)がFKを放り込み、大野が落としたボールに塙が合わせたボレーはヒットせず、早稲田実のGK宮盛朔(3年)がキャッチ。12分にも右サイドから尾山が入れたアーリークロスに大野が反応するも、トラップが大きくなってシュートは打てず。26分にもルーズボールを拾った途中出場のMF黒木麻心(3年)が枠内シュートを放つも、宮盛が丁寧にキャッチ。チャンスは作りながら、1点が遠い。

保善はアップエリアのベンチメンバーからも良い声掛けが行われていた

 すると、次の1点を記録したのも早稲田実。27分。相手守備陣の一瞬の隙を突いて、途中出場の篠田がボールをかっさらうと、もう目の前には無人のゴールだけ。丁寧に流し込んだボールがネットを揺らす。「ちょっとラッキーでしたけど、彼はそういう狙いを持っている子なので」(森泉監督)。1年生ストライカーが沈めた貴重な追加点。両者の点差が広がる。

 終盤は保善が猛攻に打って出る。38分にはキャプテンのDF平野佑真(3年)が蹴ったフィードに、大野が競り勝ったヘディングは枠を襲うも、宙を舞った宮盛がファインセーブ。直後に尾山が投げた左ロングスローから、DF斎藤颯吾(3年)が残したボールを塙が狙うも、軌道はゴール左へ。40分にも右から斎藤が入れたクロスに、途中出場のFW関澤悠斗(3年)が合わせたヘディングも、枠の左へ外れていく。

「しっかり守り切るというか、自分たちの陣形を崩さないということは、去年からの1つの財産だと思います」(森泉監督)「自分たち最終ラインも身体を張って守るということができていましたし、前の選手も自分たちに連動して付いてきてくれたので、無失点に抑えることができたと思います」(小島)。ファイナルスコアは2-0。粘り強く戦った早稲田実が、相手の攻撃から最後までゴールを守り抜き、完封勝利で次のラウンドへと駒を進める結果となった。

果敢にドリブル突破を図る早稲田実MF松下岬

 昨年度の選手権予選では、東京朝鮮高や国士舘高、國學院久我山高といった強豪を相次いで撃破し、同校初となる東京制覇を達成。全国大会でも開幕戦で国立競技場のピッチに立つなど、躍進の時間を過ごした早稲田実だが、迎えた今シーズンは地に足のついた発言が目立っている。

「『去年全国に出たチームだから、そういう目で見られているぞ』というのは監督からも言われていますけど、自分たちも去年に比べれば全然弱いということはわかっているので、少なくとも去年ほどは行けなくても、最低限の結果は守らないとダメという意味で、正直プレッシャーはあります」(スミス)「良くも悪くも注目される部分はあるんですけど、去年を上回る力はまだないので、やっぱり去年同様に守備からやる戦い方をして、去年の先輩たちが上げていった名前や立ち位置を守っていくことが大切だというのは、全員の共通認識としてあります」(DF前田竣汰)。

 チームを率いる森泉監督も「何とかどの大会も『ベスト8は死守したい』というのが子どもたちの目標なんですけど、最初は『それも無理だろ』というぐらいの、『そこまでの力は全然ないよね』という感じだったので、あまり欲張ってはやらないようなスタートはしてきましたね」とのこと。自分たちの力を冷静に見極め、『全大会でベスト8進出』という目標を立てた彼らは、実際に関東大会予選でもベスト8まで勝ち上がり、準々決勝では実践学園高に延長の末に敗れたものの、一定の手応えを掴むことに成功している。

 昨年のチームが残した結果もあって、周囲から見られるハードルが上がっていることは、今年の選手たちも実感しているが、良い意味でそこまでの気負いは感じられない。国立の舞台を経験したスミスは「もともと去年のチームは、全国レベルという意味では高いレベルではなかったですけど、チームとしてやることを徹底して頑張れば、ああいうレベルにも行けることがわかったので、今年も実力はないですけど、『頑張ればやれるんじゃないか』という自信にはなったと思います」ときっぱり。ポジティブな要素だけを抽出して、今のチームに還元している様子も窺える。

 森泉監督の言葉も印象深い。「『まだ“至っていない”中でも試合やスコアを作らないといけない』ということは昨日からもずっと言ってきていたので、今日の勝利は『力が付いたら勝つ』じゃなくて、『力がなくても勝つんだ』ということでやってきた形かなと思います。次の相手は格上なのでやりやすいです。ウチはそっちの方が全然好きなので(笑)」。

 既に1年生の小島が「このチームは『ベスト8死守』というのを目標に掲げているので、目の前の試合を1つ1つ勝って、1つ1つ積み上げていって、1つのゲームの中で自分たちが成長できるようにしていきたいと思います」と言い切るあたりに、チームで共有しているマインドが滲む。ちょっとずつ増え始めている『今年の財産』と『今年の引き出し』。インターハイでも目標のベスト8進出までは、あと1勝。やはり今年の早稲田実も、対戦相手にとってはこの上なく厄介だ。

1年生ながらスタメンで奮闘している早稲田実DF小島凛久

(取材・文 土屋雅史)


●全国高校総体2024特集
Source: 大学高校サッカー

コメント

タイトルとURLをコピーしました