左腕に巻く腕章に込めた「山田の誇りとプライド」。青森山田DF小沼蒼珠が力強く歩み出した日本一のキャプテンへの道のり

青森山田高のキャプテンを任されているDF小沼蒼珠(3年=三菱養和SCジュニアユース調布出身)
[6.3 インターハイ青森県予選決勝 青森山田高 1-0 八戸学院野辺地西高 カクヒログループアスレチックスタジアム]

 もう自分がやると腹を括ったからには、全部背負い切ってみせる。勝利だけを義務付けられた責任も、優勝しか許されないようなプレッシャーも、すべてをエネルギーに変えた上で、ただ結果で証明するしかない。それが青森山田のキャプテンを務めるということだ。

「やりがいはあります。大きいものを背負っているからこそ、自分が一番やらないといけないですし、絶対に自分の成長にも繋がるものがあるので、今は誇りとプライドを持って、キャプテンマークを付けさせてもらっています」。

 絶対王者・青森山田高(青森)を牽引するキャプテン。DF小沼蒼珠(3年=三菱養和SCジュニアユース調布出身)は県24連覇という大きな重圧の懸かった一戦を堂々と戦い抜き、歓喜と安堵の笑顔をチームメイトたちとともに共有した。

「こういった難しいゲーム展開になるということは、正木さん(正木昌宣監督)にも言われていました」と小沼も明かした、青森の覇権を巡るインターハイ予選のファイナル。打倒・青森山田に燃える八戸学院野辺地西高は、前半からアグレッシブに立ち上がり、明確なファイティングポーズを打ち出してくる。

 何回か鋭いカウンターからピンチを迎えたものの、小沼は冷静に状況を見極めていたという。「まずカウンターを何本も受けているというのは、自分たちの力量不足なんですけど、もし遅れても『ゴールを隠す守備』は正木さんにもGKコーチの古川(大海)さんにもずっと言われていたことですし、そこは自分たち4バックとキーパーの守備ラインはずっと練習から死ぬ気でやってきたことなので、失点することはないかなと思っていました」。身体を寄せ、身体を投げ出し、最後の局面では絶対にやらせない。

 試合前から小さくない重圧は感じていた。この決勝に懸かっていたのは県内の公式戦408連勝と、インターハイ予選の県24連覇。にわかにはピンと来ないぐらい途方もない数字ではあるが、とにかくその偉大な記録を自分たちの代で途切れさせるわけにはいかない。

 実は“前キャプテン”からも激励の連絡が届いていたという。「虎さん(山本虎/現・東洋大)も昨日LINEしてきてくれて、それでちょっと気持ちが和らげたのもあるんですけど、そういう先代のキャプテンたちもこれを乗り越えてきているんだということを自分に言い聞かせていましたし、虎さんにも『去年から出ているオマエと(谷川)勇獅が引っ張っていけ』ということを言われたので、『それはオレの宿命かな』と思って、試合が始まる前のベンチでも良い声を掛け続けていました」。先輩の気遣いがとにかく嬉しかった。

 後半25分。ようやくMF川口遼己(3年)が先制ゴールを奪うと、「1点入った時には『このまま行くぞ』という気持ちはありましたし、みんなの足が止まってきた時に、キャプテンの自分がいかに走れるかがチームにとって大事だということは思っていて、後半に入ったら自分はいつも1つギアを上げられるような感じでいるので、守備でも全体の集中力が上がりましたね」と言い切る小沼を中心に、青森山田の守備陣は一層集中力を高めていく。

「プレミアで自分たちはまだ結果が出ていない中で県大会に入ったので、不安というのもたくさんありましたし、最後に負けたのは正木さんの代だということも聞いていて、県内の連勝記録の話は何回もされていましたし、20年間負けなしというのはプレッシャーにもなったんですけど、やっぱり数々の先輩たちが紡いできた伝統もあったので、今日は勝ててホッとしています」。優勝を手繰り寄せた試合後。大きな声援を送ってくれたスタンドのチームメイトと一緒に獲った記念写真の真ん中で、キャプテンの笑顔がようやく弾けた。

 みんなで県24連覇という記録を成し遂げたことはもちろんだが、小沼にはそれと同じぐらい嬉しいことがあったという。「スタメンもベンチもサポートも含めて、1つの目標に向かって全員のベクトルが同じ方向を向けたことは凄く大きなことですね。サポートをする者も、試合に出る者も、それぞれの役割がある中で、1人1人が自分の役割を理解してこの大会に向かったというのは、試合の内容以上に大きなものがあるなと思っています」。

「自分も去年の夏はサポートの役だったので、そういう選手の気持ちもわかりますし、そこで割り切ってやることは本当に難しいことなんですけど、試合に出られない3年生が積極的に声を掛けてくれたので、『ああ、みんなちょっとずつ成長しているな』と試合前に思いましたし、チームが1つになれたことが、この大会を通して一番良かったことかなと思います」。間違いなくチームの輪が大きく、強固になりつつある手応えも掴んでいる。

 今年のチームが掲げている“三冠”をもぎ取るための、スタートラインには立った。去年のチームも勝ち獲れなかった夏の日本一へ。小沼の言葉が力強く響く。「去年のインターハイ、プレミアファイナル、選手権と自分は全部出ているんですけど、やっぱり去年のインターハイは、プレミアファイナルや選手権の過ごし方と比べると隙があったことを今は感じているので、今まで以上に山田のやるべきことを積み上げて、まずは一冠を獲りたいなと思っています」。

 その明るいキャラクターだけに目を向けては、この人の本質を見誤る。ピッチ上を制圧する豪胆さと、チームメイトを等しく思いやる繊細さを合わせ持った、2024年の青森山田を束ねるキャプテン。左腕に巻く腕章に『山田の誇りとプライド』を込めた小沼蒼珠のリーダーシップが、このグループをしなやかにまとめ始めている。

(取材・文 土屋雅史)


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Source: 大学高校サッカー

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