[6.12 インターハイ千葉県予選準決勝 東京学館高 1-2(延長)市立船橋高 東総運動場]
反骨心を持った名門校が、千葉連覇へあと1勝。12日、令和6年度全国高校総体(インターハイ)千葉県予選準決勝が旭市の東総運動場で開催された。3連覇を狙う市立船橋高が延長戦の末、2-1で東京学館高に勝利。市立船橋は16日の決勝で流通経済大柏高と戦う。
市立船橋はこの日、いずれもボールを動かせるDF細内統伍(2年)とMF高山大世(1年)が初先発。強度の高い東京学館に対し、「ボールをしっかりと持って、自分たちのペースにしたかった」(中村健太コーチ)という狙いがあっての起用だった。
前半9分には、左WB渡部翔太(3年)が左サイド後方からロングボールを入れ、ファーのFW伊丹俊元(3年)が競り勝つ。これをDF岡部タリクカナイ颯斗主将(3年)がコントロールからの右足シュートで左隅に決め、先制に成功した。
だが、市立船橋は風下での戦いで思うようなゲーム運びをすることができない。U-15日本代表歴を持つMF佐々木瑛汰(1年)やMF森露羽安(2年)が奮戦したものの、中盤での空中戦で苦戦し、セカンドボールを拾われるシーンが増加。市立船橋は自陣でのファウルも増え、相手MF木内楓(3年)のロングスローやプレースキックでゴール前にボールを入れられてしまう。
東京学館はシュート意識も高く、FW宮田都碧(3年)や木内が積極的にシュート。ベンチからの「自分たちのやることに自信を持て!」という声にも後押しされ、走り、戦った。久野直之監督は「『全員で行け』っていう。個人の技術がウチはないので、もうそれは1個前の(平迫宣之)監督さんからずっと言われているんで。そこが一番です」。味方を信じて前の選手を追い越す、ラインを押し上げることを徹底。チーム全体に勢いがあり、主導権を握るような戦いを見せた。
市立船橋は相手に前進こそ許していたものの、ゴール前で岡部やDFギマラエス・ガブリエル(3年)が強さを発揮して得点を許さない。その一方、ボールを繋いで揺さぶるゲームプランに持ち込めず、落ち着かない展開の中で前半のシュートは2本のみだった。
指揮を執る中村コーチは、「だったら、もうパワー勝負で少しやり合おうと。それが苦手な訳でもないので。やり合った方が選手たちもはっきりしていいかなと思って、真っ向勝負で戦うっていうところは、少し途中からは意識してやりました」という。市立船橋は伊丹やU-17日本高校選抜FW久保原心優(3年)への長いボールを軸とした攻撃を増やしていく。
前線の選手がボールを収め、右WB井上千陽(3年)の攻め上がりなどからセットプレーを獲得。だが、東京学館もゴール前で堅く、2点目を許さない。逆に後半13分、東京学館は右クロスに走り込んだ宮田がPKを獲得。これをCB熊谷大輝主将(3年)が右足で左に決め、同点に追いついた。
市立船橋は18分に累積警告を懸念されてベンチスタートだった“心臓“MF峯野倖(3年)とMF金子竜也(3年)を同時投入する。だが、東京学館の勢いは止まらず、MF田尻一真(3年)やMF近藤佑真(3年)が果敢な仕掛け。近藤が強引にシュートを打ち切り、セットプレーから田尻のヘッドが枠を捉えるシーンもあった。
だが、市立船橋は23年度選手権3位メンバーで、U-17日本高校選抜のGKギマラエス・ニコラス(3年)が「自分は特に焦ってはいなかったです。焦ったら本当にミスとかそういうのが出るっていうのは、もうずっとやってきて分かっているので。もう冷静にちゃんと自分のやることをやっていた感じです」と振り返ったように慌てない。
DFガブリエルのシュートブロックなど、要所を封じていく。また、「こういうゲームだからこそ。元々落ち着かせてくれる選手」(中村コーチ)という峯野がマイボールの時間を増やし、久保原のシュートなどを引き出していた。
80分間で決着をつけられなかったものの、市立船橋は延長戦で東京学館との差を作り出す。手数の減った相手に対し、岡部の右足ミドルや交代出場のU-16日本代表MF篠崎健人(1年)のヘッド、久保原のターンからの右足シュートでゴールを脅かす。
そして、延長前半10+1分、渡部の左クロスを井上が競り勝ってゴール前へ。これに反応した伊丹が左足ボレーで叩き込み、2-1とした。歓喜の市立船橋イレブン。直後に佐々木が2枚目の警告を受けて退場し、残り10分間は10人での戦いを強いられた。だが、「もう本当、全員出し切れていた」とGKニコラスが頷いたように、選手を入れ替えながら走り切った市立船橋は東京学館に十分な反撃の機会を与えず。2-1で勝利した。
市立船橋は今季のプレミアリーグEASTで2分6敗。峯野やニコラスを怪我で欠いていたこともあり、苦しい戦いが続いている。特に総得点はわずか1。それでも、下を向かずに取り組んできたチームは、今大会初戦(対翔凜高)を久保原の2ゴールで制すと、続く中央学院高戦は後半残り3分からの2得点で逆転勝ちを収めた。そして、この日は延長戦勝利。中村ヘッドコーチは、「やっぱり1個勝てたのが大きかったとは思います。1勝っていうものが凄く遠かったので。それが自分たちで1勝、2勝と掴み取れたことが、少し自信にもなったのかと思います」と説明する。
以前は苦しい時間帯に声が出なくなったり、集中力を切らしてしまう選手が多かったという。ニコラスは「(プレミアリーグ序盤は)そういうところにやっぱ自分が気づけなくて、チームを変えられてなかったところがあった」と振り返る。現在はより全体を見ることを意識して声がけ。結果が出ない期間を経て、チームは少しずつ変化してきている。
「(結果が出ない中、)色々批判とかそういうのがありますけど、逆に自分たちを応援できるような集団にしていきたいなって思っていたので、そこは本当に気合入れて初戦からやっていました。どんな苦しい試合でも勝つのがやっぱ市船だと思うんで。(今大会、)“市船らしさ”っていうのはやっぱ出てるんじゃないかなと思います」(ニコラス)。ゴール、勝利を控え選手たちと喜び合って決勝進出。状態は上向きだ。
決勝の対戦相手は、プレミアリーグEASTで無敗首位の流経大柏。同リーグで現在最下位の市立船橋は反骨心を持って、この戦いを目指してきた。岡部は「9割の人は多分、流経が勝つと思ってると思いますし、もちろん相手の方が、力があるっていうのは分かっていますけど、一番負けちゃいけない相手ですし、市船のプライドとか誇りとか僕たちにはあるので、その周りの予想とか、ネットで言われてることとかを『決勝の結果で覆す』っていう気持ちで臨もうと思います」と力を込めた。
また、ニコラスは「やっぱりチャレンジャーとして勝っていきたいのはあるんで、そこはもう全員多分分かってるんで、ちゃんと準備してやっていきたい。(準決勝はPKを止められず)悔しかったので、チャンス来たら今度決勝でビッグセーブしたい」。タフな戦いになることは間違いない。それでも、挑戦者として立ち向かい、“市船らしさ”を出し切って千葉制覇を果たす。
(取材・文 吉田太郎)
●全国高校総体2024特集
Source: 大学高校サッカー
コメント