先輩たちの悔しさを引き継いだ世代が堂々と立った日本一へのスタートライン。帝京は後半ATの決勝弾で日大豊山に逆転勝ちを収めて全国切符!:東京

帝京高は劇的な逆転勝利で34回目の全国切符!
[6.15 インターハイ東京都予選準決勝 帝京高 2-1 日大豊山高 AGFフィールド]

 2年前。真夏の徳島。全国ファイナルで味わった“あと一歩”の悔しさを、忘れているはずがない。高校サッカー界を牽引してきた、伝統のカナリア色のユニフォームに袖を通しているからには、どんな時でも目指すのは一番上。トーナメントの一番上から見下ろす景色だ。

「今日勝って全国に出られることは嬉しいですけど、自分たちが掲げているのは全国優勝ですし、ここはあくまで通過点なので、また気持ちを切り替えて、プリンスリーグもありますし、ここからもっと全員で意識を高め合ってやっていければなと思います」(帝京高・砂押大翔)。

 しぶとい勝負強さを発揮して、後半アディショナルタイムの決勝弾で全国切符!令和6年度全国高校総体(インターハイ)東京都予選準決勝が15日、AGFフィールドで開催され、2年ぶりの全国を狙う帝京高と初の全国出場に燃える日大豊山高が対峙した一戦は、前半17分にFW大山泰生(3年)のゴールで日大豊山が先制したものの、40+6分にFW土屋裕豊(3年)のFKで追い付いた帝京は、後半40+5分に途中出場のMF杉岡侑樹(2年)がゴールを挙げて劇的な逆転勝利。全国準優勝に輝いた2022年以来となる34回目のインターハイ出場を決めている。

 立ち上がりから構図は明確になる。ボールを動かす帝京と、ボールを奪いに行く日大豊山。ただ、帝京はセンターバックのDF田所莉旺(3年)とDF畑中叶空(3年)、ドイスボランチのMF砂押大翔(3年)とMF加賀屋翼(2年)が丁寧にビルドアップを試みるものの、「ボールは持って動かしているけど……、という感じの前半でしたね」と田所も話したように、テンポアップするスイッチを見つけ切れず、外回しでボールキープする時間が長くなっていく。

 すると、鮮やかなピンクの一刺しは前半17分。左サイドをDF大根悠資(3年)が駆け上がってクロス。ファーまで届いたボールをFW作道海斗(3年)が折り返すと、キャプテンのFW葛西由晏(3年)がシュート気味に中へ。収めた大山は「そのまま打とうとしたんですけど、『スライディングしてくるな』と思ったので」完璧な切り返しで2人のマーカーを滑らせ、冷静なフィニッシュ。ボールはゴールネットへ突き刺さる。「凄く良い形で、狙い通りの形で獲れました」とは海老根航監督。日大豊山が先に1点のアドバンテージを得る。

 以降はリードを奪ったことで、日大豊山の落ち着いたプレーが際立っていく。相手にポゼッションでは上回られながらも、GK高橋謙心(3年)、DF石田悠太郎(3年)、DF丸山修史(3年)を起点に丁寧なビルドアップにトライ。簡単にボールを捨てるようなマインドは持ち合わせていない。さらに左の大根や、前線の葛西と大山の2トップにパスが入ると、個人で時間を作りつつ、相手に脅威を突き付ける突破も披露。「先制してからは自分たちのボールも大事にできる時間が増えてきたので、こっちの期待以上だったかなと思います」と海老根監督も言及している。

 ところが、スコアは一発のゴラッソで振り出しに引き戻される。40+6分は帝京のFK。中央やや左寄り、ゴールまでは約25メートルの位置。「いつもはほとんどFKは蹴っていないんですけど、『今日は行けそうだな』と思ったんです」という土屋が直接蹴り込んだボールは、綺麗な軌道を描いてゴールネットへ吸い込まれる。「ずっと決めそうなオーラはあったので、そのオーラを信じて、見ていました」とキャプテンの砂押も口にした、13番のスペシャルな同点弾。1-1で最初の40分間は終了した。

 後半はスタートから帝京が動く。「相手とちゃんとマッチアップして、ちょっとボールを動かしながら、縦に刺せるようにという意図」(田所)からMF永田煌(3年)と杉岡を投入するも、先にチャンスを掴んだのは日大豊山。後半6分。ここも左サイドを大根が運び、MF高岡佑吏(3年)が打ち切ったシュートはクロスバーにヒットしたものの、あわやというシーンを創出する。

 12分も日大豊山。セットプレーの流れから大根のフィードを丸山が巧みに収め、葛西が枠内へ収めたシュートは帝京のGK大橋藍(3年)が正面でキャッチ。18分は帝京に決定機。右サイドで永田、土屋、杉岡と細かく繋ぎ、FW宮本周征(2年)のクロスに、DFラビーニ未蘭(3年)のヘディングはゴールを襲うも、高橋がビッグセーブで回避。「選手たちは失点にもちゃんと気持ちを切り替えて、勇気を持ってちゃんと自分たちのやるべきことをやってくれていました」(海老根監督)。一進一退。次の1点を巡って、双方の意地がぶつかり合う。

 試合を決めたのは、途中出場でピッチに解き放たれた2年生アタッカーだった。後半のアディショナルタイムもほとんど終わりかけていた40+5分。右サイドでゴールキックにしようと相手ディフェンダーに身体を入れられた杉岡は、「取れそうな感じはありましたね」と粘ってボールを奪うと、少しだけ中央に切れ込んで左足一閃。ニアサイドを抜けたボールはゴールネットを激しく揺らす。「もう『ニアに打てば絶対入る!』と思って打ち抜きました」と笑った17番の“サヨナラゴール”で勝負あり。帝京が粘る日大豊山を振り切って、全国への出場権を手繰り寄せる結果となった。

 プリンスリーグ関東に所属しているため、関東大会予選に出場していなかった帝京にとっては、今大会が新チームになって初めてのトーナメントによる公式戦。初戦となった準々決勝の早稲田実高戦は苦しみながらも2-1で競り勝ち、この日の準決勝も逆転勝利。「この前は先制点を獲ったけど追い付かれる展開で、今日は相手の思い通りに失点してしまったというところで、やっぱりトーナメントの難しさと、都大会の難しさはあったかなと思います」と田所はこの2試合についての率直な感想を口にする。

 ただ、彼らには1年前の経験値があった。昨夏はやはりシーズン最初のトーナメントとなったインターハイ予選の準々決勝で敗退。この大会の難しさはみんなが体感として共有していたというわけだ。「『インターハイはリーグ戦と違う意識でやらないといけないな』ということはみんなで話していましたし、去年のインターハイも初戦で負けてしまっていて、今日は応援に来てくれている先輩たちもいたので、その借りを返すという意味でも良かったなと思います」(砂押)。シビアな接戦をモノにするだけの力が、今年のチームには備わり始めている。

 今年の3年生がまだ1年生だった、一昨シーズンの夏。徳島で開催されたインターハイで帝京は大躍進。青森山田高や昌平高など難敵を次々となぎ倒し、決勝まで勝ち上がったものの、最後は前橋育英高に0-1で敗れ、日本一のタイトルにはあと一歩のところで届かなかった。

 それゆえに2大会ぶりとなる夏の全国へ懸ける想いが、大きくないはずがない。「2年前の自分はバックアップメンバーという形で、徳島に帯同はしていたんですけど、ピッチに入れなかった悔しさもありますし、目の前で前橋育英さんに優勝されたという悔しさもあるので、今年こそは絶対に日本一を獲りたいなと思っています」(砂押)「2年前も自分は直接徳島に見に行っていて、凄く感動もしましたし、カッコいいなと思ったので、仲良くしてもらっていた先輩たちに追い付きたい想いはありますね」(土屋)「自分たちの学年は準優勝を経験した一昨年のチームと、全国に出られなかった去年のチームのどっちも知っているので、その分の経験値はあると思っています。2年前のチームのおかげで帝京に準優勝まで行ける力があることは全国的に知ってもらえたと思うので、今年こそは優勝できたらいいなと思います」(田所)。

 この2年間、それぞれがそれぞれの立ち位置で味わった悔しさは、すべてが前へと向かう糧になる。同校OBでもある山下高明コーチが守護神を務めていた2002年以来となる、22年ぶりの全国戴冠は明確なターゲット。胸に輝く星の数をまた1つ増やすため、帝京は真夏の福島へと歩みを進めるスタートラインにいま、逞しく立ったのだ。

(取材・文 土屋雅史)


●全国高校総体2024特集
Source: 大学高校サッカー

コメント

タイトルとURLをコピーしました