[6.16 インターハイ千葉県予選決勝 流通経済大柏高 1-2 市立船橋高 東総運動場]
エースの一撃が流れを引き寄せた。
6月16日、令和6年度全国高校総体(インターハイ)千葉県予選決勝が旭市の東総運動場で開催され、市立船橋高が最大のライバルである流通経済大柏高を2-1で撃破。3大会連続31回目となるインターハイの出場権を手に入れた。
2年連続で同カードとなった千葉県予選決勝。だが、構図は例年にないほどはっきりしていた。U-18高円宮杯プレミアリーグEASTで流通経済大柏は首位を快走中で絶好調。一方の市立船橋は最下位に沈んでおり、いずれもリーグワーストの1得点・17失点で攻守に課題を残していた。理由はいくつかあり、怪我人が続出した影響も要因の一つだが、エースで10番を託されているFW久保原心優(3年)の不調もチームにとって痛手だった。
昨季の久保原は、絶対的な存在感を示したFW郡司璃来(現・清水)と2トップを組み、狡猾な動きでゴールを重ねた。先輩にマークが集中する状況をうまく利用しながら強みを示し、昨冬の高校サッカー選手権では3得点をマーク。青森山田高との準決勝では0-1で迎えた後半34分にMF太田隼剛(現・桐蔭横浜大)の折り返しから同点ゴールを奪うなど、大舞台でも怯まずに結果を残した。
印象的な活躍を見せ、今季はさらなる飛躍が期待されるのは言うまでもない。自身も信じて疑わず、シーズン開幕前にはこんな言葉を残していた。
「郡司さんの背中を1年間みてきたので、郡司君のようになんでもできるストライカーになりたい。裏抜けもできて、クロスにも合わせられて、どんな形でもゴールを奪えるのが理想のエースストライカー」
憧れの先輩のように今季は自分がチームを勝たせたい――。
強い決意を持って迎えた新シーズンだったが、いきなり苦戦を強いられた。「あんまり背負いすぎないで、自分は自分でやる」。そう言い聞かせていたが、序盤戦は10番を背負うプレッシャーを感じていた。それが顕著に現れたのが、プレミアリーグEAST・第2節の鹿島アントラーズユース戦だ。
「青森山田との開幕戦は体調不良の影響で後半しかピッチに立てなかったので、(初スタメンとなった)アントラーズ戦はやってやろうという気持ちが強かった。でも、ちょっと背負いすぎてしまって……。去年のチームは強かったし、こうだったと思う部分があって、自分のプレーも良くなかった。過去にすがっていてはダメ。去年の自分と比べるのではなく、今年は今年。今年の自分が一番良かったと言えるようなシーズンにしようと決めたんです」
去年の自分を追い求めていた部分とは何か。久保原はこう話す。
「周りに生かしてもらうプレーが自分の武器でもあった。先輩に助けてもらっていたので、今年はそこを比べてしまった」
久保原の良さは周りに生かしてもらいながら、ゴール前に入り込んでゴールを奪うプレーだ。去年の残像を消し去り、今年のチームメイトと一から連携面を築いていく覚悟を決めたが、ここからが本当の苦しみだった。
第3節以降も無得点。決定機を決め切れず、頭を抱えるシーンが何度もあった。
「ゴールが入らない。チャンスを作っても決まらないし、打ってもバーとかポストに当たったりして……。運が悪いなって気持ちがありました」
だが、これで終わるわけにはいかない。エースは気持ちをリセットし、このインターハイ予選に入った。
すると、翔凛高との初戦で2ゴール。ようやく今季初めて公式戦でゴールを奪い、2-0で勝利したチームに貢献した。これで肩の力が抜けたが、続く中央学院高との準々決勝、東京学館高との準決勝は無得点。大事な局面で結果を残せなかっただけに、流通経済大柏との決勝に懸ける想いは強かった。
迎えた決勝も相手に主導権を握られ、久保原も前線で孤立。良い状態でボールを受けるシーンが少なく、シュートに持ち込む場面も数えるほど。だが、虎視眈々とチャンスを狙い、確実に仕留めることだけを考えていた。
そして、0-0で迎えた後半13分。その時が訪れる。GKギマラエス・ニコラス(3年)がボールを掴むと、即座に左サイドへ低い弾道のフィードを送り込む。ボールを受けたFW伊丹俊元(3年)が収めると、シンプルにゴール前へ折り返す。ライナー性のボールがファーサイドに通ると、走り込んだ久保原がダイビングヘッドで決めた。
「去年はこぼれ球に詰めて決め切るシーンが多かった。今年はあまりなかったけど、いいクロスが上がってきてこれは来たなと」
大人気サッカー漫画“シュート”のワンシーンを彷彿させるような“トリプルカウンターアタック”から捩じ込んだ一撃。これぞエースの仕事で久保原の顔も思わず緩んだ。
20分にCKから失点したものの、33分にセットプレーの崩れから伊丹が決勝点を決めて勝ち切った市立船橋。膠着した状況下で生まれたエースの先制点がなければ、どのような結果になっていたか分からない。
エースの重責に押し潰されそうになった。シュートを打っても入らない日々は本当に苦しかった。だが、それを乗り越え、精神的にひとまわり逞しくなった。10番はもう迷わない。笑顔を取り戻した男は“イチフナ”のエースとして、ブレずに仲間のためにゴールを重ねていく。
(取材・文 松尾祐希)
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Source: 大学高校サッカー
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