日本サッカー協会(JFA)が19日、千葉市内の高円宮記念JFA夢フィールドで行われたプロフェッショナルレフェリー(PR)キャンプを報道陣に公開した。同日のJ1担当審判員を除く16人のプロ審判員と、交流プログラムで来日しているプレミアリーグ主審のダレン・イングランド氏が参加。およそ3時間行われた座学では実際の試合映像が用いられ、判定の正誤だけでなく、選手対応や動き方などレフェリングの細部に至る部分まで意見交換が行われた。
扇谷健司審判委員長は冒頭で「ここでやることが試合で実際に活きていると思う」と話し、PRキャンプの重要性を強調。佐藤隆治JFA審判マネジャーは「現役のPRがどのように事象を考えているのか、どうやって改善していこうとしているのか、そのプロセスが大事だと思う」と熱い議論を求めた。
座学の冒頭ではイングランド氏がプレミアリーグ担当審判員のサインが記された現地のレフェリーユニフォームをJFAに寄贈。扇谷審判委員長がユニフォームをその場で着用すると、プロ審判員たちが大盛り上がりの様子を見せる和やかムードで始まった。
ところが続く本編では空気が一変。試合映像を使った意見交換ではPR自身が担当した試合も多く扱われた中、レフェリングの改善すべき点を厳しく指摘する場面も見られるなど忖度ない議論が交わされていた。
この日の最後に取材対応した中村太主審は、時として自身の判定が仲間から強くダメ出しされる場合があることについて「僕たちの仕事の一部」と認識。その上で「皆さんに納得してもらえる判定ができるようにと突き詰めていくのがプロなのかなと思い、自分は取り組んでいる」と話していた。
意見交換は2部制で行われ、初めに行われた副審パートでは宮島一代JFA審判マネジャーがインストラクターとして登場。「チームワーク力の向上」をテーマに、副審が旗を振ってファール判定をサポートするシーンや、カードの必要性を主審に伝えるシーンが取り上げられた。
争点に対する主審と副審の位置関係から不必要なフラッグアップがされたケースも議論の対象となり、PRからは「ゲームコントロールを一気に難しくしてしまう可能性もある」「フラッグアップが選手やレフェリー(主審)から求められているのかという考えは持った方がいい」といった意見が出されていた。さらに無線を通じて主審に伝える声のトーンやタイミングに関する意見も出てくるなど、細部まで突き詰めていく姿勢が示されていた。
そこでは国際副審の経験も持つイングランド氏から「どこに主審がいるのかを見ることが大事」というアドバイスも。「英国では『ファールにしたければ吹いてもいい』ということを声で伝えるサポートの仕方もある。主審はオプション(選択肢)を持つことができる」と現地仕様のレフェリングを紹介した。
宮島氏は日本人副審の世界的地位を高めるため、「オフサイドの精度を上げること(の重要性)は目に見えて分かる。ただ協力の部分を一段階上げようということでレベルアップしなくちゃいけない」と力説。「(インカムなどの)コミュニケーションシステムは追加の道具」とし、アイコンタクトなど意思疎通の手段を疎かにしないようPRに求めた。さらにトヨタ自動車のスローガンとしても知られる「カイゼン」の姿勢を求め、Jリーグ担当審判員全体がレベルアップするためには「(プロの)皆さんがやらないと絶対に変わらない」と訴えて副審パートが終了した。
続く主審パートでは佐藤氏がインストラクターとなり、主審の動き方やマネジメントなど広範囲に目が向けられた。佐藤氏はカード基準の一貫性について「チームも一つの基準で出す、出さないが決まるものではないことは理解している。ある程度の幅はある」としつつ、「でもその幅が大きければ大きいほど混乱するし、そこをどう縮めるか」という点にフォーカスした。
事例紹介ではスライディングのファールにイエローカードを出すべきか、白黒はっきりとしない事象が取り上げられた。PRからは「試合の状況による」とした上で「それまでに試合が安定しているか、自分のコントロール下に入っているか」を考慮するという意見が出たほか、ノーカードでマネジメントできる場面でカードを出せば大きな不満を抱かれる一方、誤った感覚でノーカードにするとかえって試合が荒れる原因になるため、カードの有無だけでなくマネジメントも重要だという共有がなされた。
そこでイングランド氏は「(ファールをした)選手がどこへ向かうかによってマネジメントの場所を決める」とプレーが切れたタイミングでのポジショニングにも着目。選手が進む方向にスムーズに入り、そのまま対話を行う「インターセプト」と呼ばれる方法があることを示した。J1初担当となったセレッソ大阪対浦和レッズでも実践していたという。
またイングランド氏はカウンターの際、最初の10mをしっかりとスプリントすることが主審が争点に置いていかれないためのポイントだと指摘。佐藤氏はそういった言葉を踏まえ、「プレミアリーグは僕らからするとすごい雲の上だと思うけど、やっていることはすごくベーシックなこと」と述べつつ、「僕らが初めて聞くことではない。でも結局、プレミアリーグで笛を吹いている人も同じロジック。ということは僕らがやり続けることが大事」と基本の重要性を説いた。
活発な議論が終始行われるなか、良いレフェリングの例も示された。今月16日のFC東京対ジュビロ磐田の後半42分、FC東京がペナルティエリアの手前でファールを受けると、山本雄大主審は正しくFKと判定。佐藤氏は判定の正誤もさることながら、ポジショニングや選手に対する対応を称賛した。
特にPKをアピールする選手に対し、山本主審が安易にVARチェックのジェスチャー(手でインカムのある耳を指す)で突っぱねなかったことがポイントだという。これは山本主審の課題でもあったようで、ビデオに頼っていると選手に思われないような毅然とした対応ができていたと総括した。
3時間に及ぶ座学が終了すると、PRはフィジカルトレーニングのためにフィールドへと向かった。翌日は自己分析をテーマに試合を振り返るといい、レフェリングの改善に向けて徹底的な取り組みが行われていることが示された。
(取材・文 加藤直岐)
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