[6.23 プレミアリーグEAST第9節 流通経済大柏高 1-1 市立船橋高 流通経済大柏高G]
2週も続けて“永遠のライバル”が公式戦で対峙するなんて、なかなかあることではない。しかも全国大会出場という大きな成果を懸けて戦ってから、まだ1週間しか経っていないのだ。この2試合に掛けるエネルギーも、この2試合から得られるものも、彼らを大きく成長させる糧になることなんて、わざわざ言うまでもないだろう。
「2週連続で市船と試合できることはなかなかないですし、自分たちは『あそこで負けた悔しさを、ここで勝って晴らそう』とチームでも話していて、何が何でも勝ちたいと思っていた中で、引き分けという結果をポジティブに捉えればまだプレミアで無敗なんですけど、これからもっと自分たちの課題を突き詰めて、チームを良くしていきたいなと思いました」(流通経済大柏高・奈須琉世)
リベンジに燃える赤と、返り討ちに意気込む青のビッグマッチは、決着付かず。23日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第9節で、無敗で首位に立つ流通経済大柏高(千葉)と未勝利で最下位に沈む市立船橋高(千葉)が対峙した一戦は、流経大柏がMF葛西亮太(3年)のゴールで先制したものの、市立船橋もFW伊丹俊元(3年)が同点弾を叩き出し、1-1のドローという結果になった。
まず前提として、1週間前の試合のことに触れないわけにはいかない。16日に行われたインターハ千葉県予選決勝。3試合を7得点無失点と圧倒的な強さで勝ち上がってきた流経大柏に対し、準々決勝は1点ビハインドの残り3分から逆転勝利を収め、準決勝も延長戦を何とか制した市立船橋のファイナルは、後半に入ってカウンターから市立船橋のFW久保原心優(3年)が先制点をゲット。流経大柏もMF富樫龍暉(3年)のヘディング弾で追い付いたが、最後は伊丹の決勝ゴールで市立船橋が2-1で勝利を収め、全国切符を勝ち獲った。
プレミアで未勝利が続いていた市立船橋にとって、“4連勝”で手にしたタイトルがポジティブに作用しないはずがない。「分かりやすい結果が付いてきたことで、チームとして信じてやることに対して、『自分たちが1つになってやれば大丈夫なんだ』という安心感は少し出てきています」と話したのは今季のチームの指揮を執る中村健太コーチ。リーグ戦初勝利を期して、この“2試合目”に向かう。
プレミアでは開幕から7戦無敗で首位に立っていた流経大柏にとって、明確に日本一を目指していた夏の全国を逃した喪失感が小さくないはずがない。「負けた後はしばらく立ち直れなかったですけど、もう終わったことなので、今度はやり返すしかないなと。このまま引きずっていても、自分たちのレベルも上がっていかないですし、何が何でも勝ちを獲ろうという気持ちをチーム内で合わせて、この試合に向かってきました」と口にしたのはキャプテンのDF奈須琉世(3年)。1週間前の雪辱を期して、“2試合目”へ挑む。
ゲームが始まると、先にリズムを掴んだのはホームチーム。インターハイの決勝ではともにメンバー外だった葛西とDF廣瀬煌(2年)が右サイドでアクセントを作れば、左サイドではMF亀田歩夢(3年)が、中央ではMF柚木創(3年)が効果的な仕掛けでチャンスを窺う。
前半19分には柚木の右CKから、奈須が高い打点のヘディングで枠へ収めた軌道はGKを破りながら、ライン上で市立船橋のMF佐々木瑛汰(1年)が掻き出したものの、セットプレーから決定機。20分にも廣瀬の斜めのクサビをFW粕谷悠(3年)が丁寧に落とし、亀田が放った枠内シュートは市立船橋のGKギマラエス・ニコラス(3年)のファインセーブに阻まれるも、あわやというシーンを創出する。
さらに45分にも柚木の左FKの流れから、MF和田哲平(3年)のミドルがゴールを襲うも、ここもニコラスがファインセーブ。「もちろん相手も修正してくるのはわかっていて、試合前から『インハイの流経よりは2倍も3倍も強いぞ』ということはみんなで言っていましたけど、想像通りに強くて、必死に対応する時間が続きました」とは市立船橋のディフェンスリーダーを任されているDF岡部タリクカナイ颯斗(3年)。シュート数は8対0。それでも最初の45分間はスコアレスで推移する。
会場に赤い歓喜がもたらされたのは後半6分。流経大柏は和田、柚木とパスを繋ぎ、亀田の枠内シュートはニコラスが弾いたものの、葛西がこぼれをヘディング。ここもニコラスが驚異的な反応でストップしたが、葛西が再びプッシュしたボールはゴールネットを揺らす。7番のレフティが開幕戦以来のスタメン抜擢に応える大仕事。ホームチームが1点をリードする。
15分。攻撃の手を緩めない流経大柏は、富樫が積極的なディフェンスでボールを残すとカウンター発動。粕谷が右へ振り分け、柚木がドリブルでエリア内へ侵入したものの、シュートを打つ寸前で、2分前に投入されたばかりの市立船橋MF加藤悠人(3年)が決死のスライディングで危機回避。アウェイチームも2失点目を許さない。
すると、青い歓喜が訪れたのは17分。スローインの流れからMF金子竜也(3年)が右へ展開。DF井上千陽(3年)の正確な右クロスに、「千陽とはいつも自主練をしていて、『あそこに1本来るな』とわかっていました」という伊丹がスタンディングヘッドで合わせたボールは、右スミのゴールネットへ吸い込まれる。先週末も決勝点を挙げた9番が、この日もストライカーの矜持を披露。「ボールを持たれるのはわかった上で、ツラい時に耐えて、しっかりワンチャンスをモノにしようとは思っていました」(井上)。1-1。スコアは振り出しに引き戻された。
以降はお互いがカードを切り合いながら、次の1点を目指す展開が続くも、流経大柏は富樫と奈須、市立船橋は岡部とDFギマラエス・ガブリエル(3年)、両チームのセンターバックコンビを中心に守備の集中力も高く、どちらも決定的なチャンスは作り切れない。
最終盤に待っていたビッグチャンス。90+8分。市立船橋が相手陣内で獲得したFK。DF渡部翔太(3年)が右へ優しく送った軌道に、走り込んだ岡部がダイレクトで叩いたボレーは鮮やかにゴールネットを揺らす。劇的な決勝ゴールかと思われたが、副審のフラッグが上がっており、オフサイドという判定で得点は認められず、直後にタイムアップのホイッスルが鳴り響く。
「だいぶ押し込まれましたけど、しっかり追い付けて勝ち点が獲れたというのは、今の僕らにとっては少し成長なのかなと思います」(岡部)「1失点してから流れが相手に行ってしまって、最後は危ないシーンもあったんですけど、1対1に抑えられたことが成長に繋がると思って、受け入れようかなと思っています」(亀田)。ファイナルスコアは1-1。2週連続で対峙した両雄の“2試合目”は、勝ち点1を分け合う結果となった。
「初めて公式戦で負けたので、思いのほかダメージはあったし、全国に出られないということが一番のダメージなんですけど、そういう中でも『切り替えてやろう』という声が出ていたから、そういう面では今日は次に繋がるんじゃないかなと思っています。ここで勝てたら“もう一段”登れたんだろうけど」。試合後に流経大柏を率いる榎本雅大監督は、今のチームについてそう語る。
この日の流経大柏は、ここまで左サイドバックのレギュラーとしてリーグ戦全試合に出場してきたDF堀川由幹(3年)が出場停止。そのポジションに入ったDF石井友啓(2年)、廣瀬、葛西とインターハイ予選決勝から3人のスタメンが入れ替わっていた。その理由を榎本監督はこう説明する。
「インハイの負けには自分が一番立ち直れていないけど、勝ち負けと別に考えないといけないことが絶対にあると思っているので、今日もメンタル的な部分を引き出すためには、決勝と同じメンバーでやって『やり返そうぜ』というやり方もあるじゃないですか。でも、あの試合で歯がゆい想いをしていた選手とか、悔しいと思ってスタンドで泣いていた選手たちの想いがどうだったのかなというのも考慮して、そういう想いは将来の彼らにも、将来の流経にも繋がると思っているから、そういう部分はポジティブに考えた方がいいなと思ったのが今日の試合だったんです」。
「堀川はチームの大黒柱なので、彼が出場停止なのは痛いけど、そういう試合で右サイドに葛西と廣瀬を使ってみたりして、今日のこの試合を乗り切って、世界が広がった選手がいっぱいいるんじゃないかなと思いますし、階段を登れた選手もいたと思うので、そういうことが面白いんですよ。そもそも堀川だってサイドバックになって、選手としてもう一段階登っているわけですから」。
「そういう好奇心を指導者がなくしてしまったら、選手たちも自分のポテンシャルを引き出そうとしなくなっちゃうと思うんですよ。『もしかしたらこうすれば選手が良くなるんじゃないかな』『この選手はこういう可能性があるんじゃないかな』『このポジションだったらこういうことができるんじゃないかな』と思うことが、やっぱり選手のポテンシャルを最大限に引き出す唯一の手段かなと思うし、そういう部分では選手の良い理解者で、良い道先案内人でありたいなとは思っていますけどね」。指揮官は選手たちの可能性を信じ、ポテンシャルを信じ、さらなる成長を信じて、日々のグラウンドに立っている。
今年のチームの力には誰もが自信を持っているし、それを証明し続けるための戦いは、まだまだ十分すぎるほどに残されている。「ここからも相手が対策してくることで、難しい試合も増えてくると思うんですけど、自分たちはどんな相手であろうと流経らしく戦うのが目標ですし、そこで戦い方を変えないということも決めているので、新しい流経の形を作っていきたいですね」(富樫)「残っているプレミアリーグと選手権で二冠を達成したいと思いますし、あの負けが自分たちのターニングポイントになるように、ここから右肩上がりでどんどん良くなっていくように、キャプテンとしての責任と自覚を持って、このチームを支えていきたいなと思っています」(奈須)。
榎本監督は「夏に少し時間が空く分、そこでどうやって彼らのモチベーションを上げさせるかもそうですし、冬に向けての想いをどうやって養っていこうかなと思っていますけどね」と少しだけ笑った。百の個性が心を合わせ、一つの音を奏でれば、まだ見ぬ山の頂を望むこともできるはず。2024年の流経大柏は、ここからがきっと今まで以上に面白い。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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