アメリカ大学サッカー留学を応援する日本代表MF遠藤航、高校生を前に語ったリバプールでの分岐点「なぜここで遠藤なんだ?と…」

MF遠藤航と那須大亮氏が対談を実施
 日本代表MF遠藤航(リバプール)がスペシャルサポーターを務めるアメリカ大学サッカー留学支援サービス『キミラボ』が25日、東京都内のイベント施設で高校生を対象とするイベントを開いた。シーズンオフで帰国中の遠藤も登壇し、かつて浦和レッズでポジション争いを繰り広げた人気Youtuberの那須大亮氏と対談。海外挑戦の夢を抱く現役高校生と向き合い、自身の経験も交えたアドバイスを送った。

 イベントには首都圏を中心に全国から高校・Jユースの選手が約50人参加。冒頭で『キミラボ』のサービス概要が紹介された後、アメリカ大学サッカー留学の経験者・予定者と少人数のグループを組み、サッカー留学やアメリカ生活における情報交換を行った。

 『キミラボ』は全日本大学サッカー連盟(JUFA)のスポンサーにも名を連ねるなど、海外留学のみに進路を限定したサービスではなく、利用者は日本の大学との併願も可能。留学経験者は日本の大学のメリットにも言及しつつ、現地での費用負担や奨学金の有無、学業との両立、保護者との相談の仕方など、幅広くフラットな目線で高校生の相談に応じていた。

 その後、遠藤と那須氏の対談が行われた。2人は2016〜17年に共に浦和に所属し、ポジション争いを繰り広げた間柄。那須氏は「絶対に負けないと思っていたけど、フタを開けたらヘディング強いわ、1対1強いわ、フィードうまいわで……。切磋琢磨していた間柄です」振り返りつつ、遠藤に質問をする形で進行役を務めた。

 最初の話題はシュツットガルトからリバプールに移籍した1年前について。遠藤は欧州トップクラブならではのスピード感あふれる移籍取引の経緯、そして練習参加わずか1日で途中出場を果たし、プレミアリーグデビューを飾った第2節ボーンマス戦に至るまでのエピソードを振り返った。

遠藤「クラブにオファーが来たのが本当に急で、当時はリバプールがカイセドを取るか取らないかという噂になっていた中で取れないとなって、たぶんその直後にリバプールがシュツットガルトにオファーした形でした。そこで代理人から話をもらったけど、僕はもう行く気満々でした。プレミアのビッグクラブからオファーが来たら絶対に行くと決めていたし、即答で『行きます』と。次の日にクラブと話をして、クラブも『リバプールなら行ってこい』という感じだったので、クラブのOKが出た日の夜に飛行機でリバプールに行って、その次の日にサインして、また次の日に前日練習して、土曜日の試合に出るみたいな感じでしたね(笑)。だいぶバタバタした移籍でしたけど、プロの移籍は毎回そんなもので、8月31日までが期限で本当にギリギリで決まる移籍もあるし、僕は8月中旬くらいだったけど、土曜日の試合までに登録を間に合わせたいから早く来てくれと言われました。すぐに移籍を決めて、すぐに試合に出た感じでしたね」

 チームメートとほとんどコミュニケーションを取る機会もなかった中で迎えたプレミアリーグデビュー。もっともそこでの取り組みは海外留学を志す高校生たちへのヒントも垣間見えた。那須氏の「慣れるためのアクションはどう取っているの?」という問いかけに対し、遠藤は次のように答えた。

遠藤「僕はそんなに英語がめちゃくちゃ得意かと言われるとそうではないので、でもまずはしっかり挨拶することですね。海外の選手はみんな会ったら一人一人とハイタッチしたりするので。これは基本中の基本ですけど、やっぱり『アイツなんかテンション高いな』と思ってもらうことも結構大事だったりする。英語が全く喋れない選手も中にはいますし、そういう選手とは普段あまり喋れないけど、握手とかボディコンタクトでコミュニケーションを取る感じになるので、そういうところは大事だなと思います」

 またサッカー選手がチームに適応するための最大の秘訣は、ピッチ上で結果を出すこと。それは高校生や大学生においても変わらない。遠藤にとって大きな“分岐点”となったのは、後半38分からの出場で同点ゴールを決め、逆転勝利の口火を切った12月3日の第14節フルハム戦だったという。

遠藤「今までゴールがターニングポイントになるというのはあまり経験したことがなかったけど、あの試合はスタメンで出ていなくて、チームも2-3で負けている状況で、残り10分くらいで自分がピッチに立った。たぶん端から見たら『なぜここで遠藤なんだ?』『守備的MFを入れてどうするんだ』という雰囲気があったかもしれないし、チームメートも俺が点を取るような期待はしていなかったと思う。でも4-4-2の2ボランチ気味にして、監督はとにかく点を取りに行かないといけないということを僕に言ってくれて、そこで自分が出て5分後くらいに点を取った。その後、逆転もしたんですけど、ああいう試合こそ結果を残せるというのは意外と大事だと思いますね。僕は別に点を取ろうと思ってピッチに立ったわけではないけど、チームとして誰かが点を取ればいいと思ってプレーした結果、自分が点を取ってから逆転して勝った。あれがかなり大事なターニングポイントでした。周りの選手の信頼を得るためにも、自分のプレーをさらに良くするためにも大事なゴールだった気がします」

 そうしたチャンスの掴み方だけでなく、那須氏からは「レギュラー争いで外されたり、交代させられたりした時のモチベーションはどうしていた?」という苦しい時期を乗り越えるための質問も飛んだ。これに対して遠藤は「俺はあまり気にしないですね(笑)」とらしい回答を返しつつ、高校生の目線に立ってその理由を具体的に話した。

遠藤「もちろんなんで失点に絡んでしまったのかとか、交代させられた時に自分のプレーが良かったのか、悪かったのかといった反省はしないといけないと思いますよ。でもリバプールに関しては週末に試合をしたら水曜にも試合があって、水曜に試合したらまた週末に次の試合が来る。そこでいちいち気にしていると次の試合のプレーに影響が出るし、そういう悪循環もあり得るので、一つの試合でうまくいかなかったら、また次の試合で自分のできることを最大限100%やれるだけやるということですね。試合数が多ければ多いほど交代させられる確率は上がると思っているし、特にリバプールというチームで言うと、レギュラー争いがどうというよりは、チームみんなで毎試合毎試合戦うというイメージ。なので、スタメンではなかったとしても途中から何ができるかを考えながらベンチに座っていることが大事だし、スタメンで60分とか前半で変えられたとしても、次に向けての準備だと思ってやっていました」

 プレミアリーグのトップクラブで戦うという重圧に対しても、同様のメンタリティーで対処している様子。3月10日のマンチェスター・シティとの大一番では90分間通じてハイパフォーマンスを続け、プレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選出される快挙を成し遂げたが、その大一番に向けてさまざまな視点から明確な心構えを持っていたようだ。

遠藤「大一番で緊張するという理由は分からないけど、もしかしたらそれは高望みしすぎているのかもしれないし、不安になるパターンもあると思います。でも僕が普段思っているのはそういう大一番こそ、なかなかできる経験ではないじゃないですか。たとえばマンチェスター・シティとの大一番、アーセナルとの大一番って、サッカー選手なら誰もが憧れる場ですよね。そこで自分がプレーすると、失うものはないからとにかく思い切ってやろうみたいな考え方が一つかな。あとは長いサッカー人生で考えれば、その1試合はたかが1試合じゃないかと。失敗したとしても、この先も多くの試合に出場するし、まだまだ挽回できるチャンスはあるという考え方がもう一つありますね。もしその試合を後々になって振り返った時に『あの試合があったから自分が成長できた』とか思えれば、たとえ良い試合ではなかったとしても『経験になった試合』と言えますよね。短期的に見たらビッグゲームだけど、長期的に見たら1試合という考え方も大事だと思います」

遠藤「あとは本当にその大一番で結果を残さなきゃいけない、結果を残すか残さないかで生き残れるかどうかが関わるかみたいな大一番は、それまでの準備が全てだと思います。毎試合いつチャンスが来るかなんていうのは誰にもわからなくて、そのチャンスで結果を得られるのはそれに向けた準備ができている人だけ。自分もシュツットガルトでは最初の3か月は試合に出ていないし、リバプールでも最初の数か月はプレミアリーグの試合にはそんなに出ていない。でもチャンスが来るというふうに自分のことは信じていて、活躍するイメージをしながら、普段の練習、普段の生活で準備ができているか、想定できているかどうかが全てかなと思います」

 対談の後半には高校生に向けた質問コーナーも実施。日本代表などでキャプテンを務める者としての振る舞い、トッププロとしてプレーするための秘訣、海外でプレーするにあたっての苦労話など、さまざまなアドバイスが飛び出した。

——特に海外でキャプテンを任されるのはすごいことだと思いますが、そこで意識しているのはどのようなことですか。
遠藤「僕がシュツットガルトでキャプテンをしていた時は、もうまとめることを諦めたというか(笑)、みんな個性があるのでその個性をいかに活かせるかばかり考えていましたね。まとめるというより、個性ある選手たちをどう活かしてプレーに還元するか。普段の生活で言うと日本人より自由に生活する選手が多いので、そういう選手たちはプライベートはプライベート、ピッチ上ではピッチ上で個性をいかに活かせるかになる。そういう意味で日本人らしさは失いたくないと思っているし、チームのためにプレーするとか、周りに気遣えるとか、日本人が海外で活躍するためには日本人の良さはすごくあると思うので、そこを活かしながら他の海外の選手たちのパフォーマンスを最大限高く出せるようにサポートしている感じです」

——プロ選手として一番求められる要素はどのようなことですか。
遠藤「サッカー選手として必要な要素は全てだけど、あえて挙げるとすれば現代サッカーでは、フィジカルベースは間違いなく上げたほうがいいと思う。日本人は技術的に高い選手たちが多いけど、そうした選手がなぜ海外で活躍できないかというと、フィジカル的にちょっと劣っていたり、そこで上回られてしまう。いま世界でトップの選手たち、それこそデ・ブライネとかを見ると、技術も高いけど、フィジカル的にも高いし、身体も強いし、一瞬で抜き去るスピードもあって、フィジカル的にも違いを作れる選手なので、その辺のベースを上げたほうがいいと思う。あとは純粋にサッカーを楽しめるか。なんでもそうだけど、自分の仕事は楽しんでやるのが一番だと思うので、僕もいろいろとプレッシャーはあるけど、原点はサッカーを楽しむところ。サッカーを楽しみながらこれからも頑張ってほしいと思います」

——海外でプレーする点で一番辛かった経験はどのようなことですか。またそれを克服する方法はどうしていますか。
遠藤「僕も最初にベルギーに行った時、もともと海外には挑戦したかったけど、浦和レッズのほうが環境面では良かったし、めちゃめちゃ狭いアパートみたいなホテルにいて、孤独感を感じることはあったかもしれないですね。なんでここにいるんだろう、みたいな(笑)。ただ、そこでサッカーでうまくいかなくなったら余計に帰りたくなったり、家族にも会えない、友達にも会えない孤独感が出てくるだろうから、克服の仕方としては自分が成功している未来を思い描くことですかね。いま経験していることが、最終的に試合で活躍するための一つのステップだと考えると意外と頑張れると思うし、あと帰るのは簡単だから。プロの世界で言えば、海外で活躍できずに日本に帰ってしまう選手もいるけど、日本に帰ってしまうとまたそこから海外に出て活躍するのはめちゃめちゃ大変な作業。帰るのは簡単だけど後戻りできないということを考えると克服できるというか、自分をモチベートしてまた頑張れると思う。そういう孤独感はみんなこれから感じるかもしれないけど、自分が何を本当に目指しているのかという目標とか夢がブレなければ、海外で上に行けるし、克服して乗り越えられるんじゃないかなと思います」

 そうした回答のなかでも、高校生たちがとりわけ深く頷いていたのは「試合に出られない時、コーチに対して不満が募る時はどうしているか」という質問への返答だった。遠藤は「個人的にはあまり監督とかに不満を持ったことがなくて……」と答えつつ、「全ては自分の実力だと思うので」と具体的な受け止め方を明かした。

遠藤「もちろん自分を使ってくれないというのは思ったりはするけど、それって逆に言うと、自分の代わりに出ている選手を過小評価しているのかもしれない。自分のチームメートでも『何で俺が出られないんだ、自分はいいパフォーマンスだったのに』という選手がいるけど、それはチームメートに対してのリスペクトもないことだと思っている。もちろん自分を過小評価する必要は全くないし、自信を持ちつつも、置かれている状況や立場、監督の考えていること、なんで自分を使わずにその選手を使ったんだろうということをいろんな角度から考えてみると、自分が置かれている状況が分かると思う。常に自分に矢印を向けることが大事だし、それによってまた結果を残してやろうと思えるかもしれない。何よりそれだけ自分と向き合えていれば、チャンスが来た時に結果を残せると思う。チャンスを常にうかがって、悔しさを内に保ちつつ、最後に発散するところでしっかり頑張ろうと。そういうイメージですね」

 最後に記念撮影を行い、約1時間にわたる対談が終了。遠藤は海外挑戦を志す高校生に「日本を出て海外に行くことは、生活も含めて簡単ではないと思いますけど、一つの人生経験としては素晴らしい経験ができると思うし、日本で生まれ育った人が日本以外のことを知るという意味でも、海外チャレンジは間違いなくみなさんの人生にとってポジティブなものでしかないと思う。もちろん楽しい経験ばかりではないと思いますけど、それも含めて人として成長できる場なのかなと個人的に思っているので、チャンスがあればどんどん積極的にチャレンジしてほしいなと思います」とエールを送った。

■キミラボ公式サイト
https://kimilaboratory.com/kimilab_agency_soccer/

(取材・文 竹内達也)


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Source: サッカー日本代表

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