[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.29 プリンスリーグ関西1部第9節 近江高 2-1 神戸弘陵高 近江高校第2G]
中盤のど真ん中にどっしりと構えるのが、任されている大事な仕事。もちろん攻撃に参加するのも好きだけれど、とにかく前に行きたいチームメイトたちを楽しく泳がせ、全体のバランスを取ることも嫌ではない。このグループの勝利のために、自分にしかできないことを、100パーセントでやり切ってみせる。
「自分は対人のところだったり、守備で一番大事なところでボールを取り切ったりするところが特徴なのかなと考えています。やっぱり失点することが一番嫌ですし、陰で活躍することも自分は好きなので、そういうところでチームに貢献したいと思います」。
昨年度の高校選手権準優勝に輝いた近江高(滋賀)の中盤を取り仕切る、頼もしい黒子。MF廣瀬脩斗(3年=京都サンガF.C.U-15出身)が披露した丁寧なかじ取りが、チームの4試合ぶりとなる白星に与えた影響を見逃すわけにはいかない。
とにかく効いていた。近江のボランチを任されているナンバー6のことだ。「相手も結構後ろで回したりしていたんですけど、自分のマークのところは前を向かせたらあかんし、前に入れられた後は自分もプレスに行って、そこで取り切れたらいいなということはずっと考えていました。逆に前の選手が追った後は相手も慌てますし、チャンスになってくるので、セカンドの回収だったり、ボールがこぼれてくるところを常に狙えるようにはしていました」。やるべきことをしっかり整理して、それを過不足なくピッチ上で表現していく。
ゲーム展開も理想的だった。4連勝中と好調の神戸弘陵高(兵庫)をホームに迎えた一戦は、前半4分に早くもMF中江大我(2年)が先制ゴールをマーク。「最近は前半から行ける試合が少なかったんですけど、今日に関しては自分たちから仕掛けていけたと思います」と廣瀬も立ち上がりのチームに勢いを感じていたようだ。
1点を追い掛ける相手はボールを動かしながら、サイドアタックをベースに攻勢を強めてくる中で、中盤のバランスを維持しつつ、リスク管理も怠らない。「周りの選手たちにずっと攻撃の意識があるんだったら、自分はその中で守備意識をより強く持って、カウンターを防ぐのが自分の役割だと思っています」。攻めている時も、守っている時も、常に思考を張り巡らせる。
ただ、この日は急激に暑くなったことで、フルパワーでピッチを走る6番にジワジワと疲労が蓄積されていく。2-0とリードした後半33分。足を攣った廣瀬は交代選手に勝利を託す。「まだまだ走らないとダメですね(笑)。正直キツかったですけど、ここからずっとこういう気候になってくると思いますし、これを耐えたら冬に向けても強くなると思うので、今が頑張り時かなと思っています」。
終盤に1点を返されたものの、チームは2-1で逃げ切って4試合ぶりの白星をゲット。「自分は攻撃というよりは、守備の部分を買われていると感じていますし、その中で自分のところでボールを取り切れている部分もありましたし、取り切れない部分もあったので、取り切る確率をもうちょっと上げていければなと思います」と本人は反省こそ口にしたものの、この勝利に対する廣瀬の貢献度が非常に高かったことは間違いない。
魅力的な攻撃スタイルでファイナルまで勝ち上がり、一躍脚光を浴びた昨年度の高校選手権。廣瀬は3回戦と準々決勝に途中出場を果たすと、準決勝では3バックの左センターバックとして、決勝では左ウイングバックとしてスタメン出場。2年生にして国立競技場のピッチを味わった。
「先輩たちのプレーを見て『強いチームだな』と思いましたし、決勝まで行けたことで自分も良い経験をさせてもらいましたね。あの時は国立でやることもあまり凄いこととは感じていなかったんですけど、改めて思ったら『凄いことだったんやな』と(笑)。その中で自分に何ができたかというと、そこまで何かができたわけではなかったですし、あそこで勝てなかったというのも1つの経験として持てたかなと思います」。
もちろん今年も聖地に帰還するのは大きな目標だが、廣瀬にはそれと同じぐらい意識していることがあるという。「アレを一度経験したら、『自分たちの代でも行きたい』という想いはあるんですけど、その中で自分たちがやってきたことをピッチで出して、見ている人たちにどれだけ影響を与えられるかということも自分は考えていて、勝ちにこだわるのは大事ですけど、他の人たちにもっと影響を与えるような試合ができたらと思っています」。つまりは“近江のサッカー”を突き詰めて、昨年以上のインパクトを見る人たちに残すという目標を、この1年の大きな軸として携えている。
この選手がいるから、このグループが成り立っていると、チームメイトの誰もが認めるような究極の黒子が目指すのは、いわゆる『陰の主役』。国立の舞台を知る廣瀬脩斗の目立たない存在感が際立てば際立つほど、近江のスタイルはさらなる進化を遂げていくはずだ。
(取材・文 土屋雅史)
●高円宮杯プリンスリーグ2024特集
Source: 大学高校サッカー
コメント