[6.30 プレミアリーグEAST第10節 川崎F U-18 2-1 青森山田高 Ankerフロンタウン生田 Ankerフィールド]
お互いに貫くスタイルは違っても、お互いが貫く意志には微塵の揺らぎもない。目の前にある勝利を引き寄せるために、それぞれがそれぞれのやり方で、1つのボールを奪い合う。この両雄が激突する90分間は、いつだってメチャメチャ面白い。
「戦うという部分や勝つという部分で言うと、今日は本当に選手たちが今まで苦しい想いをしながら、トレーニングでやってきたことがどれだけできるかというところは、立ち上がりからやってくれていたと思いますので、選手たちは手応えを感じたんじゃないかなと思っています」(川崎F U-18・長橋康弘監督)。
死力を尽くした好勝負は、ホームチームが逃げ切って勝ち点3を獲得!6月30日、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2024 EAST第10節で、一昨年王者の川崎フロンターレU-18(神奈川)と昨年王者の青森山田高(青森)が対峙したビッグマッチは、後半にMF矢越幹都(3年)とFW恩田裕太郎(2年)のゴールで2点をリードした川崎F U-18が、終盤にFW石川大也(3年)の追撃弾で青森山田に1点差まで追い上げられながら、逞しく勝ち切る結果となった。
「無理して縦パスを入れたりして、相手のスイッチが入るのは避けたかったので、焦れずにタイミングやチャンスを見ながらやるというのはチームとして意識していました」というMF楠田遥希(2年)の言葉が、前半の45分間を過不足なく表している。川崎F U-18はDF林駿佑(2年)と楠田のセンターバックコンビに、左サイドバックのDF関德晴(2年)を加えた3枚でビルドアップしながら、ボランチの矢越もボールを引き出して縦へのテンポアップを窺うものの、なかなか差し込むような隙は見つけ切れない。
一方の青森山田は右からDF小沼蒼珠(3年)、DF伊藤柊(3年)、MF山口元幹(3年)、DF福井史弥(2年)で組んだ4バックのスライドも的確に、ブロックを築きながら狙うのはセットプレーのチャンス。ただ、石川も「山田のベースとして『まずは守備から』という話はしているんですけど、前半は押し込まれる中で、なかなかカウンターに出るところまで行けずに、スプリントも守備だけになってしまいました」と話したように、効果的な攻撃を繰り出すまでには至らない。前半のシュート数はお互いがわずかに1本ずつ。ジリジリするような探り合いで、最初の45分間は推移する。
「もう1つ崩すために『相手をしっかり見て、背後をなくさない』というところはちょっと意識しながら、細かいポジションの修正は行いました」とハーフタイムを振り返る川崎F U-18の長橋康弘監督は、後半開始から前線で奮闘したFW香取武(3年)と恩田の交代を決断。タイプの違うストライカーを投入する。
後半5分。いきなりホームチームに決定機が巡ってくる。相手GKのキックをMF知久陽輝(3年)が頭で跳ね返したボールから、マーカーに競り勝った恩田は単騎で抜け出すも、青森山田のGK松田駿(2年)もギリギリまで我慢して飛び出すと、恩田のシュートはわずかに枠の右へ。先制点には至らなかったが、シンプルな攻撃であわやというシーンを創出する。
すると、スコアが動いたのは17分。セカンドを回収したMF八田秀斗(3年)を起点に、左サイドをMF加治佐海(3年)とのワンツーで抜け出したMF児玉昌太郎(3年)は、マイナスの折り返しを中へ。走り込んだ矢越が正確に打ち抜いたボールは左スミのゴールネットへ飛び込む。「ハーフタイムに児玉とかみんなと『マイナスのところが空く』というのは話していて、自分は『そこに入っていくから見ておいて』と言っていたので、あとは合わせるだけでした」と笑った10番の完璧な一撃。川崎F U-18が1点のリードを手にする。
一気呵成。26分。ここも左サイドで途中出場のMF平塚隼人(2年)、恩田、児玉とボールを繋ぎ、オーバーラップした関が左足でクロス。「この1週間はずっと『点を獲ってやろう』と思っていた」というDF柴田翔太郎(3年)のシュートに、恩田がバックヒール気味に合わせたボールは、ゴールネットへ到達する。後半開始早々の決定機逸を帳消しにする、2年生ストライカーの追加点。2-0。ホームチームが点差を広げる。
このままでは終われないアウェイチームも、終盤に意地を見せる。セットプレーを中心に押し込む時間を作ると、42分にやはり小沼の右ロングスローからMF谷川勇獅(3年)の落としをMF別府育真(3年)は丁寧な浮き球で裏へ。「自分は身長が小さい分、動き出しやクロスの駆け引きといったところを正木監督にも求められているので」という石川はマーカーの背後に潜り、ワントラップから巧みなボレーをゴールへ叩き込む。2-1。前年王者も諦めない。
44分。明らかに勢いの増した青森山田に、絶好の同点機がやってくる。左サイドをMF浅野瑠唯(3年)とのワンツーで切り崩したMF三浦陽(3年)が完璧なクロスを上げ切り、飛び込んだ別府のヘディングは枠を捉えるも、ここは川崎F U-18のGK松澤成音(2年)がビッグセーブで仁王立ち。2年生守護神が大ピンチを鮮やかに救ってみせる。
「ロングスローがわかっていても、『ロングスローを投げてください』という場所に、どうしてもクリアが行ってしまって……」と長橋監督も言及した後半アディショナルタイム。青森山田はGKの松田も前線に上がり、小沼が何度もロングスローを投げ入れるも、これがほぼ1年ぶりの公式戦復帰となるDF山中大輝(3年)も投入し、何とか守り切りたい水色の壁は必死に、懸命に、ボールをエリアの外へ掻き出し続ける。
トータルタイムで95分を過ぎ、小沼のロングスローがこぼれたボールを柴田が大きく蹴り出すと、主審のタイムアップを告げるホイッスルが鳴り響く。「最後はやっと終わったなと。もう“ロングスロー祭り”みたいになっていましたし、勝てて終わったのでホッとしました」(楠田)「最後は本当にドキドキだったので、終わった時の安心感が凄かったです」(山中)。ファイナルスコアは2-1。白熱の激闘を力強く制した川崎F U-18が、貴重な勝ち点3を積み上げた。
現在のアカデミーの本拠地に当たる『Ankerフロンタウン生田』のこけら落としとなった昨シーズンのプレミアリーグ開幕戦後。囲み取材で施設の充実について問われた長橋監督は、こう話している。
「我々はコロナ禍の時に筋トレをやる時間もなく、終わってからもすぐ帰さなくてはいけないというところで、なかなか30分以内に食事を摂ることができない選手も多かった中で、この施設ができたことですべてが叶うというところで、フィジカルの強化も言い訳のできないぐらいのものが整っていますので、『目指せ、青森山田』じゃないですけど、フィジカル的な部分ではあそこを目指しているところもありますので、そこを真剣に目標にしていきたいと思います」。
集まった報道陣からは少し笑いも起きていたように記憶している。“青森山田”というフレーズが川崎F U-18のスタイルと異なるイメージもあったからだろう。だが、当時から指揮官は自身の発した言葉の通り、いたって真剣にそのレベルを目指していた。それはそのまま青森山田へのリスペクトとも言い換えられる。
昨シーズンの両者のリーグ戦における対戦結果は、川崎F U-18の1分け1敗。とりわけアウェイに乗り込んだ首位攻防戦は接戦の末に惜敗を喫した。試合後に「非常に悔しいですね。私たちが積み上げてきたことで、選手はかなり自分たちが他より成長しているという実感があったと思うので、『とにかく思い切りやってこい』という形で選手たちを送り出したんですけれども、内容を考えた時に、まだまだ足りない部分があるのかなと正直思いましたね」と長橋監督がとにかく悔しそうに唇を噛み締めていたのも印象深い。
一方で青森山田の正木昌宣監督は、ハードな“天王山”に勝利したばかりにも関わらず、「フロンターレは日本一のチームですよ。お世辞でも何でもなく」と言い切っていた。その言葉にも間違いなく川崎F U-18へのリスペクトが滲んでいる。一昨年王者と昨年王者。このプレミアリーグを牽引する両チームは、お互いに刺激を与え合いながら、対峙した時には絶対に負けたくないと鎬を削り合う、非常に興味深い関係性にあるように見える。
「技術的なところだけではなくて、空中戦だとか、セカンドボールを奪い取るところとか、球際、切り替えの速さ、ハードワーク、そういった部分でも上回れるチームというところで、選手たちと一緒に練習してきたつもりではありますので、今日は自分たちが今どれぐらいできるのか、どのぐらいの位置にいるのかということが、選手たちもわかったのかなと思っています」。
長橋監督はこの日の青森山田戦で得た収穫について、こう語っている。今シーズンは川崎F U-18を取り巻く多くの人から、例年以上に厳しい練習が行われているという話を聞く。何より指揮官が今季の開幕戦に勝利したあと、「メチャメチャしんどいトレーニングをしています。これで負けたら説明が付かないので、私が一番ホッとしています(笑)」と口にしているのだから、つまりはそういうことなのだ。
同じシーズンの“横軸”と、積み重なっていくシーズンの“縦軸”が交差することで、いくつもの学びや成長の糧がリーグ戦には散りばめられている。川崎F U-18と青森山田が次に対戦するのは、シーズンも終盤に差し掛かる11月24日の第20節。それまでに双方がどういう成長曲線を描いているのか、今からとにかく楽しみだ。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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