【単独インタビュー】日本代表主将MF遠藤航はいかにしてリバプールに適応したのか「自分自身に言い聞かせていたのは…」

日本代表MF遠藤航(リバプール)
 日本代表MF遠藤航(リバプール)はプロサッカー選手としての活動に加え、アメリカ大学サッカー留学支援サービス『キミラボ』のスペシャルサポーターとして、海外挑戦を志す高校生のキャリアをサポートする活動にも精力的に取り組んでいる。

 6月下旬に東京都内で行われた説明会では集まった約50人の高校生の前に登場し、かつて浦和レッズでチームメートだった那須大亮氏との対談を実施。「大一番への臨み方」「海外生活への適応法」などといった幅広いテーマについて熱弁し、リバプールでの日々にも触れながら刺激を与えていた。

 ゲキサカではイベント終了後、遠藤の単独インタビューを実施。このプロジェクトをサポートする思いや、自身のキャリアの切り拓き方、また海外挑戦を志す高校生にも参考になるであろうリバプールに適応できた秘訣を聞いた。

——まずは『キミラボ』での取り組みについて聞かせてください。高校生の海外サッカー留学支援という点では、大きく言えば「キャリア支援」ということにもつながると思うのですが、どのような思いで行ってきたんでしょう。
「まずサッカー選手のキャリアは全てが明るいものではないですよね。それは引退後のセカンドキャリアもそうだし、これから高校や大学でプロになろうとチャレンジしようとしている選手たちも同じです。そこでまずはこれからの選手たちを何かサポートできないかということを一番の大きなモチベーションにして始めました。ここでは留学ということですけど、そもそも『海外に挑戦したいけど行くすべが分からない』という高校生が多くいるというのを聞いて、こうして僕が表に出ることで、こういう形もあるんだよというのを知ってもらえたらなと思っています。今は『遠藤がサポートしている取り組みでアメリカに行くチャンスがあるんだな』というのをより多くの高校生に知ってもらうのをベースにやっていて、『選択肢があるなら行きたい』という高校生は意外と多いなというのを実感しているので、それはすごく良いことだと思うし、また今回も僕が話したことがきっかけでチャレンジしていく人が増えればなと思っていますね」

——遠藤選手自身も湘南ベルマーレユースからトップチームに昇格が決まった後、一度大学に進学していますよね。そうしたキャリアも影響しているんでしょうか。
「僕自身も『仮にプロで成功できなかった場合は……』というのを考えたりしていて、当時は『大学に行っておいたほうが、大卒の資格を取っておいたほうが』というのもありましたね。またサッカー選手としてもスポーツ科学、スポーツ医学、身体について勉強したいなという気持ちがあって進学しました。今はオンラインで大学に行けるところも多くなっているので、それも一つの選択肢だと思いますし、当時も通う選手はなかなかいなかったと思いますけど、行ってよかったなと思います。自分は結果的にこうしてプロとしてリバプールまで来られましたけど、将来設計を考えながらいろんなことをやっていくのは大事だなと思います」

——また自身で進学という道を選んだ経験を持つ一方、いまは海外の複数の国で子育てをしている立場とあり、海外留学という点では親の目線も持っているのではないかと思います。
「まず親目線としてはサポート体制がしっかりしていないといけないなと思いますよね。行っておしまい、連れて行っておしまいみたいな感じになってしまうと、海外の環境に適応するのはすごく難しいと思いますし、そのサポートまでできればという思いはあります。また自分自身が海外に行って感じるのは、環境面で適応するのにはやはり時間がかかるということです。それは自分の子どもを見ていても思います。ドイツに行って1、2年間は子どもたちも慣れるのが大変だったので。イギリスに行ってからも、長男は語学がだいぶできるようになって英語で生活するのに慣れているのですんなり学校に適応できたんですけど、下の子は新しい環境に慣れるのに時間がかかっていたので、そういうのも見ていると、それって高校・大学の年代の人も同じかなと思いますし、できる限りのサポートをしたいなという思いがあります」

——ここからはサッカーを通じて海外挑戦をした遠藤選手自身のキャリアについて聞いていきたいのですが、これまでベルギー、ドイツ、イングランドでプレーしてきて、それぞれのリーグに適応してきたことと思います。2021年のインタビューでは、ブンデスリーガでデュエル王と称されるに至った適応力の要因として「いかに自分を客観視できるかが大事」と話していました。ただ、さすがにリバプールでの適応はさらにハイレベルなものが必要だったと思います。
「リバプールではシュツットガルトの時と違い、最初からELやカップ戦にはコンスタントに出させてもらっていたので、リバプールに関して言えばもう自信を持って挑んだのが全てだと思いますね。ビッグクラブに行ったことで、周りはそんなに自分のことを期待していなかったというか、『遠藤って誰だよ』みたいなところから始まっていたと思うんですが、自分自身に言い聞かせていたのは、『いまリバプールにいるということイコール、自分はリバプールでプレーするに値する選手なんだ』ということですね。ある意味、そこは日本人らしくないというか、自信を持って『自分はここにいるべくしているんだ』と思ってやっていましたし、それがよかったんだと思いますね。変に謙虚に『自分はこれから適応しなきゃ……』と思いすぎていたら、もしかしたら今の適応はないかもしれない。ここはおっしゃるように次のレベルだったというか、トップトップのクラブに移籍した時に考えるべきことは、とにかく『自分はここに値する』と考えることだと思いますね。なかなか日本人では今まで例がなかったからこそ、いい意味で自分を日本人と思わず、自信を持って挑んでいた感じです」

——まさに、その時代の世界最高峰とされるリーグのトップクラブで先発で試合に出続けるという経験をした日本人選手はほとんどおらず、むしろ出場機会に苦しんでいる印象がありました。そうした環境で遠藤選手は徐々に自然と馴染んでいった印象がありますが、どのような感覚で適応していったんでしょうか。
「今までもそうでしたけど、感覚的には『一回信頼を掴んでしまえば自分は試合に出続けられる』という自信はありますね。あとはそこまでの過程でどれくらい時間がかかるかという感じで。シュツットガルトでは最初の数か月は試合に出られなかったけど、それは監督も僕のことを知らなかったので、そこからの時間は結構長くかかりましたけど、スタメンを取ってからはずっと試合に出られました。だからリバプールのほうが入りは良かったですよ。(監督のユルゲン・)クロップが自分のことを知ってくれているし、しっかり試合に使ってくれたので、コンディション的にも落ちなかった。もちろん6番(守備的MF)がそれほど多くなかったのも(出場機会の)要因としてはあったと思いますけど、監督が自分のことを評価してくれて、自分がその期待に応えられたからこそ最後まで使ってくれたんだと思います」

——さきほどの対談でも話していましたが、ターニングポイントは12月の連戦だったと思います。
「ずっと6番で出ていたマック・アリスターがケガをしたことで、『じゃあ他に誰が出るの?』という話になっていて、いろいろな選手を試してはいましたけど、『自分のパフォーマンスが上がることがチームにとって一番プラスだな』というのは、それこそ客観視して思っていました。そこはもう自信を持って挑むだけだったというか、失うものはなかったので、人生を賭けて、『ここで俺がダメだったらチームもダメだろうな』というくらいの勢いでやっていました」

——ただそこにはもう一つ続きがあると思っていまして、今年1月のアジア杯直前にマック・アリスターが復帰したことで「バトンタッチできた」という話をしていましたよね。そうなるとアジア杯期間中に再びポジションを奪い返される可能性もあると思いますが、アジア杯を終えてリバプールに戻ってからは、さらに盤石な立場になって試合に出続けていたのが印象的でした。
「そこはまず監督が自分に期待してくれていて、その期待に応えられたのが全てだと思います。僕は『アジア杯期間中にスタメンを取られたらどうしよう』というのは全く思っていなかったし、マック・アリスターが自分の代わりに出ても高いパフォーマンスを出せるということはリスペクトしていますけど、彼の最大の特長を活かすには自分がアンカーにいて、彼が一つ前にいたほうがいいなというのは僕も分かっているし、彼もそう思っていただろうし、監督もそう思っていただろうなと。そこには自信があったし、今のリバプールには自分が必要だと思っていたし、自分が活躍しないとチームも優勝争いができないと思っていました。それをとにかくこなしていたという感じでしたね」

——アジア杯後からは主力としての活躍が続いたことで、リバプール現地でも信頼感が高まっている様子が伝わってきました。リバプールの街全体、またクラブを取り巻く人々からの空気感はどのように感じていましたか。
「チームメートの信頼も含めて、認められているなというのを感じていましたね。12月もそうだし、アジア杯から帰ってきてからは特に感じていました。ただそこはある意味、自分自身が最低限やらないといけないタスクであったというか、僕もただずっとベンチに座っているためにリバプールに来たわけじゃないので、チーム状況を考えても自分が高いパフォーマンスを発揮して、スタメンで出続けないとリバプールはCL圏入りや優勝争いはできないと思っていたました。でも認めてくれたのは嬉しかったですね。そのゾーンに入れば、あとは自分もさらに伸びるだけなので。またファンも最初からサポートしてくれていましたけど、そうなってからはより『遠藤を応援しよう』という輪がどんどん広がっていった感覚もありました」

——アンフィールドは単なるビッグクラブのホームスタジアムというわけではなく、世界のサッカー選手から憧れられる特別な雰囲気のある場所だと思いますが、そこに馴染んでいくというのはどんな感覚なんでしょう。
「僕はすごく街を歩いているほうではないんですけど、リバプールはビートルズとアンフィールドの街だと言われていて、本当にみんなが応援してくれていますし、あとハングリーな雰囲気があって、そこがたぶん自分のプレースタイルにマッチしているんですかね。みんな縁の下の力持ち的な、泥臭いことをやる選手を好むファンたちなので、そういう意味で馴染めている感覚があります」

——プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたマンチェスター・C戦あたりからはより強く感じていました。ただ、『月刊遠藤航』での試合後の動画を見たのですが、引き分けという結果に満足していないという点を強調していたのも印象的でした。そういう意味では結果という点が次の1年のテーマになるんでしょうか。
「本当に満足はしていないですね。CL圏を取ったことには一定の評価が得られると思いますが、リーグ優勝もしたかったし、常に上を目指してやってきた人間なので、そこはまだまだだなと思っています。ああいうシティ戦のような試合を勝っていれば優勝するチャンスがあったかもというのはシーズンを振り返っているといくらでも出てくるので、来季は目の前の試合でしっかり勝ち点3を取り続けられるようにやらないといけないなと思っています」

——初めてのチャンピオンズリーグ出場も控えていますが、遠藤選手にとってCLはどんなステージですか。
「サッカー選手にとっての夢の舞台だと思いますし、みんなが目指している舞台で、僕自身もすごく楽しみにしています。またリバプールはCLにただ出場するチームではなく、そこで優勝できるチームの一つだと思うので、優勝を目指して戦えるのが楽しみだし、それができる力があると思っているので、その一員になれるのがすごく楽しみですね」

——最後に少し日本代表のことも聞かせてください。アジア杯ベスト8という結果に終わり、「何かを変えないといけない」という声も出てくる中、普段取材している限りでは遠藤選手は異なる意見を持っていると思います。ここからの2年間をどう歩んでいこうと考えていますか。
「本当にそうですね。あれから何かを変えるというよりは、本当にワールドカップで結果を残すしかないなと思いましたね。あそこで負けたのはアジアのレベルが上がっていることもありますし、おそらく『最終予選、勝てるのか』ということも言われると思いますが、それを覆すにはもう結果なので。ワールドカップ優勝を目指しているチームには変わりはないので、もうそこだけだと思っています。もちろんアジア最終予選は簡単なものではないですが、ワールドカップで結果を残せるかが全てなので、そのためのステップとしてこれからの最終予選に向かっていくという形かなと思っています」

——アジア杯期間中には選手ミーティングの際には全体の司会、MCのような役割を務めていたようですが、周囲の意見を積極的に取り込みながらチームの戦い方を調整しているように見受けられました。現在のキャプテンとしての役割をどう捉えていますか。
「まずそこでは自分も意見を言いますけど、やはり自分の意見が全てだとは思わないし、自分の意見を日本代表のスタイルに全て還元してもしょうがないというのは思っていて、最終的に何かを決めるのは監督ですし、そのための意見をしっかりと伝えるのが僕の役目という感じですかね。できるだけいろんな選手からいろんな意見を聞きながら、それを監督に話をして、最終的に監督がどういう判断をするか。そこを擦り合わせる作業がキャプテンとしての仕事だと思っています。監督だけではなく、名波(浩)さん、トシさん(齊藤俊秀コーチ)とかコーチ陣も他の選手とのコミュニケーションは密に取っているので、チームとしていいディスカッションができていますし、そこはポジティブに捉えています」

——またキャプテンという点では、これまでも世界のビッグクラブでプレーしてきた日本代表選手は多くいた一方、キャプテンが最も競争力のある環境・クラブでプレーしているという状況はなかったと思います。その点は現在の日本代表の一つの大きな個性ですし、必然的にピッチ上での役割でチームを牽引しなければならないという状況にもなっていると思いますが、これからのチームの引っ張り方をどのように考えていますか。
「これは本当にその通りで、自分がリバプールで試合に出続けることが一番チームを引っ張るという話だと思っています。今回も伊藤洋輝のバイエルン移籍が決まりましたけど、みんなビッグクラブに行きたいと思ってやっていると思うので、キャプテンが先陣を切ってやっていくという意味では、そこで引っ張っているのかもしれないなと。そういう存在でいられればいいなと思っています。代表はそんなに活動期間が長くない中でやらないといけないし、普段の所属クラブで何をしているかをみんなが見ているので、これからもそこはやらないといけない部分だと思いますね。あとのことはこれまでと変わらないというか、今までやってきたことをやり続けて、その結果次のW杯で優勝できればいいと思っているし、そのためにはまずは最終予選を勝ち進むことが今の目標で、目の前の1試合に勝つことだけを考えて、それを続けてW杯優勝ができればと思います」

■キミラボ公式サイト
https://kimilaboratory.com/kimilab_agency_soccer/

(インタビュー・文 竹内達也)


●北中米W杯アジア最終予選特集
Source: サッカー日本代表

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