[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.6 プリンスリーグ九州1部第9節 熊本U-18 0-0 長崎総合科学大附高 大津町陸上競技場]
まだ今は原石かもしれないが、その輝きは既にピッチの中でも圧倒的な光を放ちつつある。ひとたびボールを持ったら、強い意志を携えて、大胆に中央を、果敢に前へ。相手が何人マークに来ようと関係ない。だって、目指すのはその先にあるゴールだけなのだから。
「もっと先輩を追い抜けるように頑張って、スタメンを獲ったりしたいですし、代表からも声が掛かるように、もっとプリンスで試合に出て、結果を残していきたいです」。
ロアッソ熊本U-18(熊本)に現れた、抜群の推進力を誇る“後天的レフティ”。MF成田響輝(1年=荒尾フットボールクラブ出身)がアグレッシブに何度も繰り出したドリブルが、夏の気配も色濃くなった炎天下の芝生を鋭く切り裂いた。
「ずっとボール保持はしていたんですけど、攻撃に繋がっていないというか、攻撃に厚みがない感じだったので、相手の中盤の選手が前に行った時に、後ろのスペースで受けて、自分が仕掛けて、攻撃の起点になろうと思っていました」。
なかなか攻撃の手数を繰り出せない前半は、ピッチに立ちながらこう考えていたという。長崎総科大附高(長崎)と対峙したプリンスリーグ九州1部第9節。今シーズンのリーグ戦では2度目のスタメンとなった成田は、思うように流れの中へ絡み切れない。言い換えれば“消えていた”と言ってもいいだろう。
だが、その瞬間は唐突にやってくる。後半も中盤に差し掛かったころ。自陣の低い位置でボールを持った成田は、突如としてそれまで見せていなかったような縦へのドリブルを開始。虚を突かれたのか、相手ディフェンスもその20番を止められず、あっという間にバイタルエリア付近までボールを運び切ってしまう。
「あれまではボールを受ける回数も少なかったですし、あまり何もできていなかった感じがしていたんですけど、あのワンプレーが出てからは、『相手も疲れていたので、もっと行けるな』と思って、ギアを上げました」。フィニッシュにこそ結び付かなかったものの、このワンプレーでピッチ上の空気感が一変する。
驚異的なのは30度を超えるような気候の中で、一番苦しくなってくる後半の終盤に差し掛かっていくにつれて、その推進力がどんどん増していっていたことだ。「『もうやるしかないな』という気持ちはありましたし、みんながキツい時こそ自分が走ったらチャンスが多く作れるかなと思って、結構疲れている時でも仕掛けられました。あまり体力に自信はないですけど(笑)、今日は調子が良かったです」。1年生でそう言い切るのだから、何とも逞しい。
後半33分。ここも成田は躊躇なく中央をドリブルで突き進む。剥がして、剥がして、適切な状況判断から右サイドへラストパス。駆け上がってきたDF高本颯太(2年)のシュートは枠を越えたものの、決定的なチャンスを独力で演出してみせる。
結果的に試合はスコアレスドロー。ボールを持つ時間の長かった熊本U-18にしてみれば、やや悔しい勝ち点1となった感も否めないが、「後半の途中からドリブルができ始めて、そこからチャンスが何回が作れたと思うので、終わった後にちょっと『前半からできてればな』と思いました」と笑った1年生の好パフォーマンスは、今後への期待を感じさせるには十分なそれだった。
中学年代の3年間は、「全部自分にボールを預けてもらって、そこから攻めようというチームでした」という熊本県内の荒尾フットボールクラブでプレー。普段は県2部リーグを主戦場に置く中で、県トレセンにも入っていた成田には県外の強豪チームからも声が掛かっていたものの、選んだ進路は地元のJクラブのアカデミーだった。
「決め手はスカウトの方が中1の時から自分を見てくれていたことです。あとは地元でサッカーを続けて、プロサッカー選手になりたいという想いがありました」。覚悟を持ってこの4月から熊本U-18の門を叩いたが、当初は要求される水準に戸惑うことが多かったという。
「サッカーの戦術の話が難しくて(笑)、頭と身体が付いていなかったので、ちょっと悩んでいた時期がありました。走ったり、ワンツーしたりとか、周りとの関わり方が難しかったですし、どういうポジショニングを取ったらいいかとかがあまりわからなくて、大変でした」。
ただ、チームを率いる岡本賢明監督にとってみれば、壁にぶち当たったその経験も、ある程度は想定していたという。「響輝がもともと上手いのは知っていましたけど、今までボールと自分の関係でプレーしているところが多かったので、『もうちょっとオフのところで良い状態で受けられたら、もっと良さが出るよ』というような話が難しく感じたんだろうなって(笑)。少しずついろいろなことができるようになってきましたね」。
守護神を任されているGK宮本哲宏(3年)も成田について、ポジティブな成長を感じているようだ。「どうしてもロアッソは前線の守備をする時の決まりとかはあったりして、ボールを受けたら十分できるんですけど、そこは難しかったのかなと。でも、サッカーに対して凄くマジメですし、1年生なのに自分から声も出せますし、自分をどんどん出してくれているので、今は頼もしいなと思っています」。
成田自身も自分の中での変化を確実に感じている。「今は自分の持ち味を出すために、受ける回数を増やして、自分から関わりに行こうと思っていますし、周りに合わせるのではなくて、自分の良さを出すことも意識しています。最近は難しい話もわかってきたので大丈夫です(笑)」。チームのベースを理解してきたことで、ストロングを出すタイミングや場所も格段に整理されてきているようだ。
ドリブルもパスも大半は左足によって繰り出されるが、その“利き足”に対する自信を尋ねると意外な答えが返ってきた。「もともとは右利きです。中学1年生の時に結構左足で蹴り始めたら、『左の方が蹴りやすいし、ドリブルしやすいな』と思い始めて、そこから左の方が蹴れるようになりました」。つまりは“後天的”な左利きとのこと。そんなエピソードからも、規格外の才覚が窺える。
岡本監督が明かしてくれた話も興味深い。「ここ最近はトレーニングの中でも高いパフォーマンスを出せていますけど、ストイックでマジメな子なので、自分にすべて矢印が向くところもあって、それによっていろいろ悩んでいくところもあると思うので、うまくメンタル面も含めて成長させていければなと思います」。指揮官もコーチングスタッフも先輩たちも、この1年生の成長を温かく見守っている。
サッカー選手として目指している到達点を問われた成田は、キラキラした目でこう口にした。「ロアッソでプロサッカー選手になって、そこからJ1や海外に出ていきたいと思っています」。その掲げた目標にたどり着くため、自身が誇る武器のドリブルのように、前だけを見つめて走り続けていく。
熊本が育んできた新たな才能。熊本U-18に台頭してきた16歳。このままのびやかに成長していくのであれば、成田響輝の名前を今まで以上に多くの人が知ることになるのも、そう遠い日のことではないはずだ。
(取材・文 土屋雅史)
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Source: 大学高校サッカー
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