[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.30 総体3回戦 作陽学園高 0-0(PK3-5)桐光学園高 JヴィレッジP7]
頼もしい「最後の砦」だ。桐光学園高の堅守を支える主将、杉野太一(3年)は、身長171センチとセンターバックにしては少し小柄だが、鋭い予測でピンチの芽を摘む。
3回戦の作陽学園戦は、後半から相手に押し込まれる場面が増えたが、味方が競った後のこぼれ球を素早く回収。高い危機察知能力を発揮した。3バックの中央で先発した杉野は「予測力は、ある方。サイズもないので、相手と五分五分で戦うのではなく、少しでも自分が有利な状況になる位置取りを考えている。ボールの落下点を予測することも意識している」と話した。
もちろん、大型センターバックとは特長が異なる。杉野自身が「クロスへの対応、マークの受け渡し、前で潰すプレーは、課題だと思っている」と話すように、対人での力強さがあるタイプではない。センターバックは、横浜F・マリノスジュニアユース時代にプレーの経験があるが、桐光学園に進学後は、主にサイドバックを務めていた。それも身体のサイズを考えれば、納得だ。
優秀な選手が集まる強豪校の一つである桐光学園において、それでも杉野が中央で起用される理由は、どこにあるのか。鈴木勝大監督に聞くと「話せるし、戦えるし、配球もできる。攻守ともにチームが安定する。今、すごく安定している。チームに絶対的な存在。チームのために、自分の良さを出してくれる」と強い信頼感を示した。コミュニケーションで味方を動かし、相手の動きに制限がかかったところを巧みに狙い、危険を遠ざける。賢いプレーのできる選手だ。
特長を発揮するのは、守備だけではない。サイドバックでのプレー期間が長かったこともあり、攻撃参加でも存在感を示す。作陽学園戦では、前半に思い切って高い位置まで上がって、右ウイングバックの武山陽介(2年)からパスを受け、鋭いクロスで好機を演出。MF吉田晃大(3年)のヘディングシュートがクロスバーに嫌われて得点にはならなかったが、チャンスとなる場面の認識と、そこでのプレー精度の高さで決定機を作り出した。
一進一退の攻防となった試合は、スコアレスのままPK戦に突入。後攻の相手の4番手がミスした後、5番手を務めた杉野がシュートを成功させ、PK戦5-3で準々決勝進出が決まった。杉野は「タフな試合になるのは、分かっていました。一昨日もPKで勝った。(得失点)ゼロゼロで終わってしまったけど、PK戦でも勝つ自信はあったので、そこは良かったです」と落ち着いて話した。
ただ、試合が終わると、仲間が「一番ヒヤヒヤした」と声をかけていた。桐光学園は、前回の準優勝チーム。明秀日立高(茨城)との決勝戦は、2-2の同点。PK戦で勝敗が決まったのは、杉野が相手GKに止められた瞬間だった。杉野自身は、その話に触れなかったが、仲間たちは、もちろん、恐怖に打ち勝ったキック成功だったことを知っている。鈴木監督も「昨年止められたPKも成功させて、借りを一つずつ返している」と目を細めた。
頭にあるのは、昨年の雪辱。届かなかった日本一の達成だ。しかし、PK戦が続いていることからも分かるように、簡単な道のりではない。3回戦では、主力FW丸茂晴翔(3年)が負傷交代するアクシデントがあり、次戦の守備の重要性は増した。準々決勝は、攻撃力が光る昌平高(埼玉)との対戦。杉野は「目の前の試合に集中して、少しでも良いコンディションで臨めるように努力します」と来たる勝負に備え、気を引き締めていた。
(取材・文 平野貴也)
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Source: 大学高校サッカー
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